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恋の掟は冬の空

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陽射しと風と


「さ、お散歩っていってもどこに行きましょうか・・」
ロビーを出て直美が、どうしようって顔だった。
「外って寒かったぁ?」
「うーん、けっこう暖かいけど、風は少しあったかなぁ・・」
さっきロビーの窓から見た空は青空だった。
「外は歩いちゃいけないんでしょ・・」
「うーん。でも病院の敷地から出なけりゃいんじゃないかなぁ・・」
「そうかぁ、でも、何もないんだよねーこの病院って・・付属の大学はちょっと歩いたところだしね」
付属の医大は歩いて5分ぐらいの離れた位置にあるようだった。
「でも、少し歩いてみようかぁ・・入院してから外に全然出てないでしょ・・」
言われてみれば1ヶ月もこの建物の外には出た事がなかった。
「うん。じゃぁ 寒いかもしれないけど付き合ってよ」
「いいよー うーん、でもその格好じゃぁ風邪引いちゃうよ、劉・・」
いつもながらの厚手の上下スエットだった。
「その上に着るのってあったっけ・・あっ、セーター置いてあるはず。入院したての頃に持ってきたもん、私」
「うんうん。あるある」
「それだけしかないけど、大丈夫かなぁ・・」
「そんなに長く外にいなけりゃ 平気だって・・」
もう、外を歩く気分だった。
「じゃぁ 病室行って着替えなきゃ・・」
直美の声で二人で病室に向かっていた。

「はぃ、これね」
直美がセーターを手渡してくれた。
トレーナーの下には長袖のTシャツを着ていたのでその上にセーターを着込むことにした。ベッドに座ってだった。
「どう、あったかい?」
「うん、大丈夫だと思う」
厚手のしっかりしたお気に入りのセーターだったから、暖かかった。
「じゃ、いこうかぁ」
「うん」
元気な直美の返事だった。
「なんか デートらしくなってきたね、さ、外歩こうかぁ」
「なんか ドキドキしちゃうね・・」
うれしそうに直美がまた杖を差し出していた。
受け取って立ち上がりながら直美を見るとうれしそうな笑顔だった。
「何回も言うけど、ふざけて転んだりしないでね・・」
歩き出すと、少し後ろを歩いていた直美にくぎをさされていた。
「どっかに、お出かけ・・」
ナース室の前で婦長が声をかけてきた。
「こんにちわ、お邪魔してます」
直美がきちんと頭を下げていた。
「久しぶりだわね。いいわねー 日曜だもんね・・あんまり無理して歩かせないようにしてね・・柏倉くん松葉杖になって、うれしくてしょうがないみたいだから・・」
「はぃ 少しだけ病院内をお散歩してきます。疲れたら椅子見つけて座らせますから・・」
「うん、お願いね」
「えっと、建物の外も一緒に少し歩きたいんですけどいいですか・・」
きちんと直美がお願いをしていた。
「かまわないわよー でも、ここって何にもない病院だけど・・いいの」
「はぃ、でも、ちょっと外歩きたいんで・・ありがとうございます」
直美と一緒に頭を下げていた。
「じゃ、気をつけてね」
婦長は忙しそうにいつものように資料をいっぱい抱えてだった。
「はぃ、失礼します」
一緒ににっこりして答えていた。

エレベーターが1階につくと、いつも外来患者さんでにぎわっている待合室も、薬剤室前も、日曜だったから、すごーく不思議な静けさだった。
おまけに電気も薄暗かった。
「うわぁー なんかけっこう、怖いよねー」
少し振り返って直美の顔を見ながらだった。
「そうだねー すごーく静かだもんねー 平日とは大違いだよね。昼間にここに来ると、この時間でもいつも すごい人だよ」
俺はあんまりこの場所には来た事はなかったけど、見かけるといつもここは人であふれていた。
「あ、お見舞いの受付しなきゃ・・ちょっとここで待ってよ。劉が一緒だとおかしいかもしれないから。座ってまってて、すぐに戻るから」
「走るなってば・・」
そんなに急がなくてもいいのに、直美はかけ出していた。直美らしかった。
走ると直美はけっこう足の速い子だった。
見渡すと、薄暗い外来待合室にも何人かは、座って話をしているようだった。広い場所なのに、8人ぐらいしかいなかった。
ほんとに静かだった。
「お、なにやってるの・・こんなとこで・・」
薄暗くって良く顔は見えなかったけど、担当医の山崎先生だった。
「えっと、散歩の途中です」
「ふーん。どう、松葉杖はいい感じかなぁ」
「はぃ もうけっこう慣れました。先生、今日も勤務ですか・・」
「うーん、もう帰っていいんだけどね・・どうせ今夜も夜勤だしねー どっかで寝ちゃおうかなぁって考え中」
少し笑いながらの疲れた顔だった。
「あ、こんにちわ」
先生の後ろに早足で直美が戻ってきた。
「あー 何だそうかぁ・・おかしいと思ったんだ。一人でこんなところは・・ いつも元気だなぁ 君は」
俺と直美を交互に見ながらだった。
「お世話になってます。お元気ですかぁ」
「いやー 君ほどではないなぁー」
笑いながらけっこう、大きな声だった。
直美も笑っていた。
「では、ゆっくりしていきなさいね。お大事に」
「あ、先生、聞いていいですか・・劉って退院っていつですか」
「あー うーん、明日レントゲンを撮って良好なら来週の日曜なんかでいいかなぁ・・」
「ほんとですかぁ」
静かな静かな外来待合室に直美のおっきな声が響いていた。
「いやー 結果見てからだから、まだ喜ばないで、まだだめかもしれないし・・俺だけの判断ではないから・・ねっ。言ったじゃないですかって言われても困るから・・」
「はぃ よろしくお願いします。言いませんから、出来るだけ日曜で・・」
まだ大きな声の直美だった。
「うん、うん、わかったから、じゃぁ お大事に」
先生は、ほんの少し困ったような、眠そうな顔だった。
「はぃ ありがとうございました」
うれしそうに笑顔で山崎先生を見送っていた。
もちろん俺も一緒にだった。

「よかったねー 27日だよねー」
「うん。でもまだ、わからないよって言ってたぞ」
「うん、でも、きっと大丈夫だって。うん 大丈夫」
直美は勝手に自信ありげだった。
「さ、外出てみようかぁ・・来週に向けて練習ね」
本当にうれしそうな顔の直美を見てるだけで、こっちすごくもうれしくなっていた。
正面の入り口は閉まっていたから、お見舞いの受付の通路を通って、外に向かっていた。
狭い通路だったけど、直美の手がまた松葉杖の俺の左手の上に置かれていた。あったかな手だった。

「わぁー 久々だぁー」
「寒くない、大丈夫?」
心配そうな直美の声だった。
「うん、そんなに寒くないや。大丈夫だよ」
「よかったぁ でも、風邪ひいちゃいけないから、少し歩いたら戻るからね」
「うん。あっちにさ 少しだけ庭あるでしょ。たしか椅子も少しあったはず・・病室の窓から見えるから・・」
「へー 知らなかった。じゃ、そこまで行こうか・・」
外にでたら、左手の上の直美の手はもっと暖かだった。
小さな庭の小さなベンチまでは、100mぐらいだった。
「退院日曜かぁー よかったぁー、ねぇ ほんとはものすごくうれしいでしょ・・顔に出さないように我慢してるでしょ・・・劉って」
「うん。だって 喜んで退院延びちゃったら、俺もがっかりだけど、直美って、すごくがっかりしそうだから・・」
「大丈夫よ、きっと。がんばってよ」
作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生