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恋の掟は冬の空

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食後のデートは3人で


「もう私はお腹いっぱい・・劉、全部残り食べられでしょ・・」
残りは、そんなに言うほどではなかった。もともと、きちんとしっかり直美は食べる子だったから、ほんとうにお腹がいっぱいらしかった。
「うん。綺麗に食べちゃうね」
残りはお惣菜で買ってきた、コロッケとレンコンの肉詰めが少しだった。
「コーヒーでいいでしょー・・私もコーヒーにするけど・・」
「うん、ありがとう」
「いれてくるから、まっててね・・」
まだ、少し俺は食べていたけれど、直美は席を立って、病室にカップと、たぶんインスタントコーヒーを取りにいくようだった。
全部綺麗に食べてお弁当の入れ物を片付けていると、直美がカップを2個抱えて戻ってきた。

「はぃ、どうぞ」
俺専用のカップはもちろんだけど、直美用のカップもいつも用意してあった。
「もう 車椅子は乗らなくてもいいの・・」
「うーん、徐々にって言われたけど、いいんじゃないかなぁ」
やっぱり、車椅子より杖のほうが動きやすくって楽だった。どうにも車椅子って横幅が、だった。
「退院の日にちっていつわかるんだろうね・・ちゃんと毎日先生に聞いてよねぇ」
学校とバイトと病院だったから 口にはださなかったけれど直美も疲れているはずだった。
「はぃはぃ 毎日しつこいように聞いてみます」
真剣な直美の顔だったので少し笑いながら答えていた。
頭の中では、来週の今日あたりならって 勝手に考えていた。
入院してても基本的にはなーんも治療なんかしていなかった。ただ、単に無理しないように、ここにいるだけのような気がしていた。ま、俺が悪くて入院ではなかったから、病院代は関係なかったけど。

「あ、夕子がさ、英語を教えてくれないかな・・って言ってた」
「ふーん。なんかわからないのかなぁ・・ちゃんと勉強してるかなぁ・・」
「あとで、少し教えてあげなよ・・」
自分の受験の時も英語は苦手だったから、俺では、とても人には教えられるもんじゃなかった。その点直美は、英語は得意科目だった。ま、今も英文科だし。
「第一希望って、うちの大学なのかなぁ・・まだ・・」
「言ってたけど、他も受けるんでしょ、きっと・・」
「そっかぁ・・受かるといいね・・」
さすがに 入院してると受験勉強には不利だろうなぁ・・って俺も思っていたし、きっと直美も同じ事を思っていたはずだった。
「夕子ちゃん 部屋かなぁ・・呼んでこようかなぁ・・いいかな・・劉・・」
「一緒に行こうか、俺も」
「うん、じゃあ コーヒー飲んだら行こうかぁ」
言い終わったら、直美が少し笑って、俺の肩の向こうを指さしていた。
「夕子ちゃん 来た・・」
小さい声も遅れて出していた。
振り向くと、もう側まで本を抱えて来ていた。
「こんばんは、直美さん柏倉さん。ほんとにデートの邪魔して悪いんですけど、どうしてもわからなくて、聞きたい事が少しあるんですけど いいですかぁ・・・すぐに帰りますから・・」
「平気よぉ 明日も来るんだもん」
一つしか歳は離れていないのに、直美がすごく、おねーさんみたいだった。
「ごめんなさい、わがまま言って・・」
夕子は、女子高で、それもけっこうなお嬢様高だったので、きちんとするところは、きちんとした子だった。
「で、どこなの・・わかんないのって・・見せて・・」
言われると高校生はテキストみたいのを広げていた。
「うんじゃ 俺はまったく パスだから 横で静かにしてるわ・・」
「あ、柏倉さん、ほんとにすいません。怒ってないですよねぇ」
頭を小さく下げながらの高校生だった。
「あ、夕子ちゃんね、劉ね 英語だめなのよ・・それだけよ・・怒ったりしないよ、劉は・・。さっき、夕子ちゃんが私に聞きたいことあるんだってよ、って言うぐらいだから・・。もともとイヤならそんな事言わないわよ・・」
「そうそう。英語はダメなんだよねぇ。恥ずかしいから聞かない、見ない・・変なこと言っちゃいそうだもん」
本当にわけのわからないことを言っちゃいそうだった。
「はぃ、じゃあ お言葉に甘えます」
「うん。さ、頑張ろうっか、夕子ちゃん」

直美と高校生は、長文の解釈とそこからの英作文みたいな事を話していた。もちろん、二人が話してる事が全部わからないわけではなかったけど、どうやら高校生のほうが俺より間違いなく英語の成績がいいらしかった。
二人の声を聞きながら、直美の横顔を眺めていた。
丁寧に、でも楽しそうに教えているようだった。
1月が直美の誕生日だったけど、気がつかない間に彼女も大人の女性になっている気がしていた。
高校生に教えながらも、直美は俺に気を使って、たまに目を合わせてきていた。
優しい笑顔の直美の瞳だった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生