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血染桜

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正午過ぎ。空は曇りがちで、灰色に支配されていた。
とある高いコンクリート塀の建物。緒布(おふ)県内の阿鼻臼(あびうす)刑務所。その刑務所の正門から、一人の女性が出てきた。

「……娑婆か。空気がうめえ」

ジーンズに黒いシャツを着た長身で筋肉質の女性は、周りをぎょろぎょろと見回しながら伸びをした。ふくよかな胸のラインがくっきりと出ている。
彼女は、近くのバスターミナルまで歩いていく。六年も経つと、全てが変わって見えた。
空を見ると灰色に滲んでいる。どうやら、一雨来そうだ。
やれやれと考えながらバスターミナルに辿り着き、壁に寄りかかる。

「お姉さま」

右方からの声に女性は振り向いた。

「……小楠(こぐす)か」

女性が振り向くと、そこには小柄な色白の少女が立っていた。麦藁帽子に淡い水色の薄手のワンピースを来た、可憐な少女。

「御久しぶりです。お姉さま。おつとめ、ご苦労様」

小楠と呼ばれた少女はにこりと微笑むと、女性に近づいてくる。

「……会いたかった。すっかり大人っぽくなったな」

女性は溜め続けてきたものを吐き出すかのように小楠を抱きしめる。

「……私も、寂しかったんだよ?親方」

小楠も姉である女性を抱きしめかえす。

「姉妹二人、ようやくそろったんだな……。この六年、凄く長く感じたぜ」

「……親方……、本当に、寂しかったの……。みんなやさしかったけど、やっぱり、親方がいないと……」

「……小楠。嬉しい。本当に……」

親方と小楠の歳の離れた姉妹は、離れていた年月を埋めるかのように抱擁しあった。
親方は、とてもとても満たされていくような感じがした。小楠の淡い野の花の匂いを鼻腔に感じる。塀の中で6年も待ってこれたのは小楠が待ってくれていたからだ。
この喜びを一入にかみ締める。それは小楠とて同じだろう。
自分よりずっと小さい少女を、腕の中で撫でる。
バスターミナルの前を黒いセダンが走り抜けていく。
大きな破裂音がした。
親方は、その破裂音に聞き覚えがあった。その破裂音は……。


――発砲音。


弾丸が、小楠の肩を掠った。

「……!!」

何が起きたかわからず、顔を歪める小楠。
小楠の肩を掠った弾丸は、バスターミナルの屋根へ抜けていった。

「小楠!!」

弾丸が連射される前に、親方は小楠に覆いかぶさるようにして、庇う。
親方の右肩、左の腿に弾丸が当たった。
自動車は、流れるように銃を乱射して行ったのだ。
小楠は、体力を奪われたのか、ぐったりとなっていた。

「小楠……。おい、小楠!」

親方は、妹を抱きとめながら、大声で妹の名を呼ぶ。

「おやかた……、だ、だい、じょう……ぶ……」

小楠の肩から、赤い命の液体が滲み、そして流れ出していた。

「だ、大丈夫なわけが……!」

ぽつぽつと。
天から雨粒が落ちてくる。
雨脚が速くなるにつれて。
親方の心臓の鼓動も早鐘を打った。
二人の姉妹に雨粒を打ちつけながら。天は何を思っていたか。
親方には、分からなかった。ただ、妹を抱きかかえ、名を呼ぶのみ。

親方が分かったことは、その雨粒がとても冷たいということだけだった。
作品名:血染桜 作家名:кёку