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【ゲルマン新刊】LILIE【リヒ愛され本】

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ミルクティーに子守唄(ドイツとリヒテンシュタイン)





 さて、これはどういう状況なのだろう、とドイツはぼんやり思った。
 自分の頭の下には淡い赤の布。枕にしては少し派手な柄の布の正体は女性のスカートで、やわらかすぎるほどにやわらかなそれに、ドイツは混乱した頭を乗せていた。
「眠れますか?」
「……分からん」
「そうですか」
 体を横向きに倒しているため、世界がぜんぶ横に倒れて見える。ドイツの視界には何も映さないテレビと、その近くに置いてあるパンダのぬいぐるみ、それから飲みかけの紅茶が入ったティーカップがふたつ映っていた。肩のあたりを、ぽんぽんと優しく叩かれ、ドイツはぼんやりと目を細めた。本当に、この状況は一体何なのだろう。
 ことは、数十分前にさかのぼる。

***

 リヒテンシュタインが事前に連絡もなくドイツの家を訪ねてくるという、珍しい事態が起きた。
「どうしたんだ突然」
「いきなりすみません。……とくに、用はないのですが」
 なんだそれは、とドイツが眉根を寄せてもリヒテンシュタインはすみませんと繰り返すだけで、それ以上は言おうとしなかった。何かあったのだろうかとも思ったが、もしかしたら本当に用もなく寄ってみただけなのかもしれないとも思った。リヒテンシュタインは、ドイツにとってはとても不思議な少女だった。
 彼女の外見をとって「少女」と例えたが、リヒテンシュタインはドイツより年上、らしかった。らしい、という形を取ったのは、ドイツがその辺りをよく知らないからだ。ただ、ドイツがまだ幼いころから彼女のことをリヒねえさん、と呼んでその後ろをついて回ったことをぼんやりと覚えている。だから彼女はドイツより年上で、姉のような存在なのだろうと思っていたし、なんとなく、ドイツは彼女に逆らえなかった。無表情と微笑の間を行ったり来たりするリヒテンシュタインはとらえどころがなく、そもそもドイツは女性と接することがあまり得意ではないため、どうしても彼女に振り回されるような形になってしまうのが常だった。
 今、現在ドイツはリヒテンシュタインのことをリヒ姉さんとは呼ばなくなっていた。幼い子供が「おにいちゃん」「おねえちゃん」という呼び名を恥ずかしがって呼ばなくなるのと同じようなものなのだろう。なんとなく、幼いころと同じように彼女を「リヒ姉さん」と呼ぶことをやめ、他の国々と同じように彼女のことも「リヒテンシュタイン」と呼ぶようになっていた。
「リヒテンシュタイン、客にそんなことはさせられない。向こうで座っていてくれ」
「いえ、私が勝手に押しかけたんですもの。私がやります」
 彼女は、頑固なひとだった。彼女が決めたことは彼女なりに貫くべきものがあるらしく、リヒテンシュタインの心がそこに留まったことに対してドイツがそれを覆せたことなど片手で足りるほどの回数しかなかった。今回も、お茶を出そうとキッチンに立ったドイツの手から、彼女はさっとティーポットを奪ってしまった。強引に奪い返そうにも、いけません、と子供を叱るような口調で突っぱねられては、ドイツに逆らうすべなどなかった。
 だが、しかし、と言い募ろうとしているうちにお茶の準備が整ってしまったらしく、リヒテンシュタインはティーカップをトレイに乗せて、
「お部屋に参りましょう、ドイツさん」
とリビングに向かってしまった。ドイツは砂糖とミルク、それからお茶菓子に、と戸棚からクーヘンを出して慌ててそのちいさな背中を追った。