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The Over The Paradise Peak...

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Prologue

『AE』(=Armored Exoskeleton system)

 ……ベネズエラに近い、コロンビアとブラジルの国境地帯で、正樹達の部隊が伏撃体制に入ってからおよそ四時間。
 情報が正しければ、そろそろ敵が現れてもおかしくない頃合いであった。

 肉眼ではほとんど何も見えない夜のジャングルに、いつの間にか小動物のざわめきと、小さな虫の声が戻って来ていた。

 正樹の機体は現在、偽装ネットを被り、浅く掘った穴の中にしゃがみ込んで、かつ半ば土に埋もれた状態である。
 この姿勢だと、正面からはステルス性の高い外装(レーダー波吸収構造、RASと呼ばれる)部分しか見えなくなるため、機体は電波反射源及び熱源としては、ほぼ完全に存在を消してしまえるようになる。
 さらにここ数日間の激戦の結果として、無数の兵器の残骸が散乱しており、磁気探知機すら無力化しているはずであった。

 これならよほど至近距離でも発見される可能性は無い。(因みに専用のシールドを持てば、目の前にいてもレーダーには映らない)

 ほとんど全ての機能が待機状態に入っており、まるで戦闘機のコックピットのような印象を与える全周モニタはもちろん、あらゆる情報画面が消えている。

 作動しているのは、換気のための小さなエアコンと、本部中隊が管理している聴音情報と、機体が収集しているそれ、ようするに外の音を拾っているマイクとスピーカーだけだ。

 非常用の赤いLEDが一つ点灯しているだけだが、暗闇に慣れた目にはこれでも十分であった。

 因みに正樹はこの状態が嫌いではない。
 射出座席に固定され、繭型のそこに座っていると、なぜか不思議と落ち着くのである。正樹は近頃、自分には母胎回帰願望とやらがあるのかもしれない、などと疑っている。
 もちろん誰にも話した事はなかったが……。

 不意に、待機状態にあった通信用の補助モニターが起動し、密林を背景に一人の男を映し出す。
 もちろん光ケーブルを利用した有線通信である。

“客が来た。準備はいいか?”

 何時聞いても実に綺麗なスペイン語だった。本来命令の伝達は英語で行われる事が多いのだが、時々部隊編成の都合上、こうしてスペイン語を使われることもあったのだ。
 特に最近はその傾向が多くなっている気がする正樹である。

「いつでも」

 “常時”を意味する単語で答える正樹。
 それは初めて戦場に出て以来、英語だろうとスペイン語だろうと、毎回欠かさず使っている台詞であった。
 他のパイロット達にも必ず一つ二つは有るであろう、験担ぎみたいなものである。
 正樹自身は指摘されるまで気付いてもなかったし、験担ぎのつもりもなかったのだが、指摘されてからもそれは続いていた。

 そんなパイロット達の心の動きなどお見通しなのだろう、男は黙って頷き、収集していた戦術情報を送信してくる。

 通信画面の奥に、完全武装の機動歩兵が幾人か見えた。
 戦闘開始を控えた、旅団司令部の慌ただしさが伝わってくる。

“砲撃による支援は無いが後は何時も通りだ。敵が地雷原に入ったら自由にやってくれ。以上”

 通信が切れるのと同時に、正樹は主・副の両電算機と受動探知機を稼働させ、装備と残弾及び残動力の確認を行う。
 とりあえず常時把握しておかなくてはならない情報の中では、この残弾と残動力の二つは別格と言って良い。
 どちらも戦闘行動の維持に不可欠であるばかりでなく、無くなった場合即座に自らの死に直結するものであり、一般に思われている以上に消耗が激しいのである。

 戦域情報を拡大すると、等高線で画かれたなだらかな二つの丘陵と、その合間の、敵のおおよその侵攻ルートに対して、ダムのように綺麗な弧を描いた味方の兵士達が表示されている。

 青い円が歩兵、塗りつぶされた丸が機動歩兵、三角がAPC、塗りつぶされた三角がMBT、四角が自走砲等の間接火力、塗りつぶされた四角がミサイルなどの対空兵器、そして、星の形が装甲歩兵だった。
 因みに飛行機は『士』の字を横にした形で、ヘリは地図の果樹園の記号。船はお椀で潜水艦は伏せたお椀である。

 ブリーフィングの時から知ってはいたが、この作戦には歩兵2個中隊、機動歩兵が一個小隊、装甲歩兵が三機、あとは指揮車両と輸送車両しか参加していない。
 それしか参加できなかったのである。
 対して敵は大隊規模で、一般歩兵と中隊規模の機動歩兵、装甲歩兵の数は二機以上五機以下。多脚戦闘機が存在しない事だけが唯一の救いだった。

 場違いなほど可愛らしい電子音と共に、戦術情報用に指定してあった補助画面が起動した。
 本部中隊の情報チームが統括している戦術情報である。
 地雷原の向こうにばら撒いてきた無数の固定式集音器に、人工物の作動音が引っかかった事を教えてくれたのだ。
 普通に聴いても密林の雑音だけしか聞こえないが、本部がスクリーニングした音を聞けば一発でわかる。
 本来殆ど音をたてないはずの駆動装置も、工作過程がいい加減では意味がないし、手入れが悪ければ当然音が漏れる。
 この機体もそうした例のひとつであった。
 恐らく破損した導管をそのまま放置している。密林の下生えを踏みしだく音に混じって空気の漏れる音がするのだ。
 情報では米国製らしいが、その粗雑な作動音は間違いないだろう。

 正樹が微かな嘲りの笑みを浮かべる。

 ……出力五パーセント低下ってところか?
 この連中はアーマーの出力が五パーセント低下した場合、それがどれほど巨大な損失になっているか気付いていないのだろう――いや、それとも補給と整備が間に合っていないのか?

 正樹の思考が巡る間に、スクリーニングされていない集音器から、不用意な人の声が聴こえてきた。

 ポルトガル語で交わされている兵士達の会話。

 ブラジル人兵士に間違いない。
 会話を捉えた集音器の位置を確認すると、敵は半月状に広がる地雷原のど真ん中に向かっているらしい。

「……良い子だ、そのまま来い」

 ひとこと呟き、瞳を閉じて数を数え始める正樹。

 …………二〇八、二〇九、二一〇、二一一、二一二っ――!

 集音器が遠くで爆発音が響くのを捉え、一瞬置いて機体の各種受動探知機が警告音を鳴らす。
 ほとんど同時に機体の集音器にも、遠くの爆発音が響いてくる。

 無線封止解除。

 即座に隊無線から無数のクリック音が聞こえ、密林を透かして見える夜空に、打ち上げられた吊光弾の閃光が煌めき始める。

 同時に味方が発砲を開始。
 システムオールグリーン。
 しかし正樹はまだ動かない。

 爆発の後、敵は狂ったように最大出力の能動探知をかけてくる。おかげで索敵画面には探知目標が次々に表示されてゆくが、その大半は軽装の機動歩兵で脅威判定は低い。
 確認できた敵のアーマーは三機。
 正樹達の“女神”と通称されている味方アーマーと同数だったが、内一機は最初に地雷を踏んだ間抜け。
 しかもどうやら対物地雷だったらしい。機体は半壊していて煙りを出している。

 パイロットは――生きていたなら奇跡だ。