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赤い瞳で(以下略) ep1-2

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4


――それにしても紅也のやつ、強引だったな……。
 消灯時間が近付いてくる中、俺は呟いた。消灯時間は夜の十時。今は、……九時の五十分。
「そうですねー、どうしてあんなに……」
 途中で、アラタ君は言葉を切る。紅也のことをとやかく言いたくないのかもしれない。
「それにしても、ナイフ通り魔とか、怖いですよね……。雪花、大丈夫かな」
 ああ、そういえば。
 ナイフ通り魔、か。流行っているんだったっけ。
 ナイフ、ナイフ、ナイフ……。
 普通――。
 普通、通り魔って、刃物で背中を一回切りつけるとか、そういうものなんじゃないのかな。……昨晩見た二人みたいに、あんなに無残な殺し方を、するものだろうか。
 いや。
 そんなコトはどうでも良い。俺が引っかかっているのは、もっと根本的な、……そう、凶器の――ナイフだ。
 ナイフ。
 俺がここにいる理由。いや、原因。
 そして、その原因の原因。
 咲屋灰良。
『ぱちっ』
 病室の電気が消された。
「それじゃあ皆、おやすみなさい」
 何時の間に来ていたのか、みちるさんが言って、行ってしまう。時計の蓄光針は十時を指している。あと二時間で、俺とアラタ君はここを抜け出すことになっている。入院患者が深夜に出歩くなんてことを、医者が許可するはずはない。なので、外出許可など申請すらしていない俺たちである。幸いここは二階の窓際なので、簡単に抜け出せる、はずだ。たいした計画を立てているわけではないので、恐らくいきあたりばったりの脱出劇となるだろうが、……まあ抜け出せるだろう。
「あの……更衣さん」
 アラタ君が、小さな声で、隣のベッドから声をかけてきた。俺も、ひそひそ声で答える。
――何?
「その、……すみません。更衣さんには何の関係もないっていうのに」
――気にしないでくれ。どうせ何を言ったって紅也は聞かないしな。それに、俺だって雪花や君が心配だし。……でも、俺なんて、本当に行って良いのか? なんか個人的な話になりそうだったら、俺、どっか行ってるから……。
「有難う御座います」
 暗がりの中で、ぺこりと頭を下げるアラタ君の姿が微かに見えた。俺はもう一度、気にしなくて良いと言って、カーテンを閉めた。
 さて。
 紅也が俺に、ついていけと言ったということは、そこで何かが起こるのに違いない。と、いうことは。
 俺は本棚に手を伸ばして、小さなペンライトを手に取った。左手には、勿論赤表紙の本。
 何が。
 何が、――書いてあるのか。
 光りが漏れないように注意しながら、本を照らす。
 一ページ目には、昨日の紅也の字が――……、なかった。代わりにそこに記されていたのは、英文だった。まるで、あたかも普通の英語本のように、ずらりとアルファベットが並んでいた。……ああ、そうか。これは恐らく、紅也なりのカモフラージュなのだろう。他の人に見られても、良いように。
 だからって、英文ってどうなんだ? しかもこれ、見た感じ聖書だぞ? 悪魔の癖に。
 呆れながら、俺はページをめくる。
 案の定。
 そこには紅也の字が、丁寧に書き込まれていた。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei