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ひとり散歩

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電車を選んだ君にサヨウナラ
眠らない街を歩く
僕が腕時計を外したとき、ネパールの工場について話し た君
スーツが映えるその姿に、遠ざかる風船を重ねていた

摩天楼にサヨウナラ
懐かしの大学を歩く
僕の落書きに、いちいち吹き出しを書き足していた君
スターリンの革命よりも、僕はその漫画ばかりを憶えて いる

時計のある世界にサヨウナラ
僕は地球を歩いている
靴底のノックに応えて
僕の中で往来を始める小さな人々
愛が人を温める世界

背中を揺する冷たい気配
門の閉まった公園を歩く
街中のドアが閉め切られるそよ風、暖房が点く音
1人が寒くない世界

森が気持ちで色づくころ
つむじから漏れる、真っ白な蒸気
フキダシのように、丸まり
フーセンのように、夜の崖を昇る
三日月の縁に掛かり、雲になる

言葉にできない造形
時を讃える陰影

鞄が落ちて、手帳をペンが走る
踵を返し、カメラ店にひた走る

ほら
曖昧だった何かが、目に見えている
僕と君の証が、形になっているよ

だから
雨よ、降り出さないで
雲よ、とけださないで

分たれた僕の欠片が、アスファルトの下へと寝に戻る

泥を浴びる舗装道
体に残るのは水滴の温度ばかり
たたみかけるような雨音だけが、プラットフォームまで 届く
2本の傘を持つ君のシルエットが、僕を待っていた
作品名:ひとり散歩 作家名:takeoka