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カールアゲイン

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毎日毎日、外で何かを画用紙に写していた。
空に線を引く飛行機。ホーンテッドマンションみたいな一軒家。うんちみたいなオブジェのついた黄金のビル。
そして、ボロくてクサくてTVもない家に帰ると、色を塗って楽しんだ。
ある日、ホーンテッドマンションみたいな家の門の隙間から、スヌーピーのモデル、ビーグル犬が見えることに気づき、僕は鉄柵に顔を押し付けて、一心不乱にエンピツを走らせた。
もう少し。黒い線が全体を捉える。
あと少し。細部にうつる。
「ツガワくん?」
後ろから声をかけられた。
「はい」
諦めて振り向いて、僕はびっくりした。
「タマキさん」
同級生が目の前にいた。高級な格好。上品に両手で鞄をさげたポーズ。ハーフのクラスアイドル、タマキさん。
なんと彼女はこの家の子どもだったのだ。
「あら」
顔を真っ赤に、硬直した僕の右手のスケッチブックを覗き、タマキさんが上品な声をあげた。「シュタイナーだ」
どうやら、それがあのビーグル犬の名前らしかった。
「あなたの家はどこ?」
僕は下を向いたまま、後ろを指差した。
「え」トタン屋根のボロ屋を見て、タマキさんが本音を漏らした。「あれ、家なんだ・・・」
この日から、タマキさんは教室で僕に話掛けてくるようになった。
「ねえ、ドラえもん書いて」
僕はドラえもんを10秒で仕上げた。
「すごい!」
彼女が手を叩いた。その賛辞は、星を模したガラス照明のように、教室中にきらびやかな光の帯を広げ、みんながこっちを見た。
「もっと書いて」
そんな影響力は知らず、彼女は次を急かした。
僕は、ちょっと考えてから、スヌーピーを書いた。
「あ、シュタイナーだ」
彼女が嬉しそうに手を叩いた。瞬く光に集まる害虫のように、みんなが僕の画用紙に寄ってきた。
そんな引力は知らず、彼女は「ね、貸して」と僕のエンピツを取って、スヌーピーの横に丸を書いた。
『ぼく、シュタイナー』
吹き出しのセリフだった。続けて、もとスヌーピーの顔にブチを書いた。
「シュタイナーの顔に、ブチがあったでしょう?」
そういって、タマキさんは僕に顔を向けて、頬に指を指して、微笑んだ。
もうやばかった。もとスヌーピーは、もうシュタイナーさまさまだった。
僕は家のセンベイ布団で、彼女のことを思い浮かべた。耳の横でくるんとカールを描くブロンドの髪。彼女のお父さんは有名なカリスマ床屋さんだ。
僕は枕元のスケッチブックを開き、その螺旋のカールを記録に残そうとした。しかし紙面のぐるぐるは、彼女の魅力を写し取っていなかった。僕は頭を抱えた。
ベッドに力つきた僕の夢の中で、ティンカーベルが舞い、きらきらとした螺旋状の足跡を、暗闇に瞬かせていた。
作品名:カールアゲイン 作家名:takeoka