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やまと蒼紫
やまと蒼紫
novelistID. 15444
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濡れた髪と終わらぬ関係

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 薄暗い部屋に響くシャワーの音を、ベッドの中で呆けながら聞いていた。情事の後の生温い空気が、疲れた躰に煩わしい。
 不意に水音が途切れる。扉の方へ視線だけ向ければ、先刻まで俺を抱いていた男が間も無く姿を見せた。
「ちゃんと躰拭いてから出て来たら。風邪ひきますよ」
 重たい腰に鞭打って半身を起こす。全裸の足元に水溜まりを作っている人物に、俺は眉根を寄せた。
「心配してくれてんの?」
「まさか。掃除すんの誰だと思ってんすか」
 嬉々とした声を直ぐ様否定して、ビショビショのフローリングを睨み付けた。床が染みになる。
「つーか、とっとと服着て髪乾かして帰って下さいよ。可愛い娘さんと綺麗な奥さんが家で待ってんでしょ?」
「まあそう言うなよ」
 然も当然の様に、苦笑しながらベッドに歩み寄って来る。ぎしりとスプリングを軋ませて、藤北はその躰でシーツを濡らした。
 それに対しても顔を顰めた俺に、彼は「どうせ取り替えるんだろ?」と笑う。
「他人事だと思って……」
 俺は引ったくる様に相手の首にかかったタオルを奪うと、彼の頭に被せてガシガシと乱暴に拭いてやった。藤北は痛い痛いと悲鳴を上げながらも、抵抗する様子は見せない。そのまま軽く躰も拭ってやっていると、何だか介護でもしている気分になる。
 何度となく彼との関係を終わらせようと思った。所帯持ち相手に、いつまでこんなことを続けるのかと何度も別れを切り出そうと思った。けれど――。
「かずは」
 手首を取られ、引き寄せられる。反射的に瞼を閉じると、タイミング良く唇が重なった。
 この啄むような優しいキスがいけない。俺の名を呼ぶ甘い声がいけない。
 流されて俺の方からも舌を蠢かせ始めると、ゆっくり体重を乗せられて、再び躰がベッドに沈んだ。
 きっとこの先もずっと、俺は彼を拒めない。
「さっき帰れって言ってなかったか?」
 してやったりと笑う顔を、恨みがましげに仰ぎ見る。
「……帰れよ」
「ほんとに素直じゃないなー」
 そう小さく苦笑した藤北の顔が若干傷ついたように見えたのは、恐らく俺の都合の良い錯覚だ。
 藤北は甘えるように俺の胸に顔を埋める。
「もう少し、このままで……」
 そう呟いた彼の湿った髪を、俺は胸が締めつけられる想いで軽く梳いた。

 きっとこの先も、俺はこの人に流される。
 彼が俺に飽きてしまうだろうその日まで、俺達の関係は、続く――。




fin.