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VARIANTAS ACT 17 土曜の夜と日曜の朝

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Captur 4


 石の様に重い身体を起こしたレイラは、ずきずきと痛む頭を指で押しながら髪をかき上げた。
 見覚えの無い部屋。周囲を見回すとそこは小綺麗な内装の寝室で、天井にはシャンデリア。一見し、すぐにホテルの一室だと気付く。
 ――なぜこんな所に……
 疑問に思いながら、彼女は窓を見る。夜明け前、外は未だ薄暗く、朝霧が立ち込めている。
 レイラは頭を押さえながら、記憶の糸を辿った。何せ、自分がいつ、どのようにここに来たかも解らなかったからだ。エレナと、酒を飲んでいた所までは覚えている。だが、そこから先の記憶が、どうしても思い出せない。頭痛と倦怠感から、自分が今、二日酔い中である事は明白だが、それ程まで飲んだ記憶も無い。
 ふと彼女は、自分が裸である事に気付いた。下着は一枚も着けていない。しかも胸元周りには、幾つもの痣のようなキスマーク。そして隣には、人であろう布団の膨らみ。
 彼女は目を疑った。
 まさか自分は、酔ったまま、誰か知らない人物と一夜を共にしてしまったのではないか。しかし、最後に覚えているのはエレナだけだ。まさかエレナではないはずだ。だとすると、その後誰かと……?
 そんな疑念が彼女の中を駆け抜けようとしたその時、隣で眠る人物が、レイラの方へ寝返りを打った。
 そして彼女は、もう一度目を疑った。
「嘘……」
 ブロンドヘアーが波打ち、豊かな胸が、重たそうに揺れる。その顔は満足そうな、安らかな寝顔。
 隣に寝ていた人物。
 それは自分と同じく、裸のエレナだったのだ。




***************




 バイクに跨がり、朝霧を切り裂きながら、コンクリート舗装の道を走る。
 路面からグリップに伝わる、ゴトゴトとした振動。旧式のマイクロロータリーエンジンから、尻に伝わる振動。そのすべてが、彼女にとっては心地好かった。
 空気を切り裂く、スポーツバイクのカウル。ピッタリとしたブルーのライダースーツに身を包んだ彼女は、今から向かおうとしている場所について想いを巡らしていた。
 別れた仲間達は元気だろうか。新しい仲間は居るだろうか。新しい出来事や話。
 聞きたい事がたくさん有ある。そんな気持ちが、彼女をより急がせていた。
 スロットルをより一層開く。回転数がレッドゾーンへ上がり、空気がより早く流れる。
 走る道の右側にはフェンス。高速で流れていくフェンスの向こうは、サンヘドリンのHMA格納庫と滑走路。
 彼女は、哨戒任務の為に朝の空へ飛び立っていく空軍機と並走するかのように、さらにバイクを飛ばした。


 一方その頃、ビンセントは、ハリーとサブの二人を残したまま格納庫を後にしていた。
 格納庫に残ったのは、床に散らかるブラックコーヒーの缶と眠気覚ましのミントガムの包み紙。そして、パイプ椅子に座ったまま虚空を見つめるサブと、尻を突き出した体勢で地面に突っ伏し、そのまま夢の世界に旅立ったハリー。
 ビンセントはと言うと、彼は虚ろな目をしたまま煙草をくわえ、自分の車の中にいた。
 夜勤明け。ビンセントは後悔していた。
 夜通し、妄想最萌えコンテストなどやらなければよかったと。
 それは正に、泥沼の戦争であった。
 旧世紀の大国間が危惧していた全面戦争のような、不毛な核の撃ち合い。その後に残ったのは、ただの焼け野原に他ならない。誰が一番萌えるか結論を出すなど、人類にはまだ早過ぎたのだ。
「兵どもが……夢のあと……」
 ビンセントはそう呟き、車のキーをひねった。
 ぼやける頭を左右に振り、車を軍施設の車庫から出し、ゲートに向かわせる。 途中何度も瞼が落ちそうになったが、そこはビンセント、気力で持たせる。
 とにかく家に向かうのだ。そうすれば、フカフカのベッドでぐっすり眠れる。夜勤手当も付くし、何より、今はうるさいアイツもいない。寝た後はビールで一杯やりながら……。
 頭の中でそんな思考を廻らせながら、ビンセントはアクセルを踏み込む。
 間もなくゲートに着く。スピードを落とし、ゲートの無人セキュリティーをくぐる。すると彼は、何も考えずに車を公道に出した。無論、左右確認を怠ってだ。
 その瞬間だった。
 突然左側から、バイクが突っ込んできた。
 そしてバイクは、ビンセントの車に激突。
 その瞬間をビンセントは、パイロット故の優れた動態視力で捉えていた。
 衝突の瞬間、車のボンネットが衝撃で波打ち、フロントの左タイヤハウスが潰れた。潰れた瞬間、バイクのフロントフォークが折れ、リアタイヤが跳ね上がり、乗っていた人間が放物線を描いて宙を舞った。
 それはまるで、人形のように……。
 スローモーションの世界が終り、バイクのライダーが地面にたたき付けられる。その衝撃は凄まじく大きい。ライダーは、ピクリとも動かない。
 ビンセントは、まるで自分がぶつかったかのように放心状態だった。戦場で正気を保つ訓練を受けていなければ、パニックに陥っていただろう。
 彼は恐る恐る車を降り、周囲を見渡す。
 周りには、バイクのフロントライトと車のライトの破片が散乱していて、事故の衝撃を物語っている。
 ライダーに歩み寄る。ライダーは、ブルーのライダースーツを着た、細身の女だった。
「おい……! 大丈夫か!?」
 ビンセントは声を掛けるが、ライダーはやはり無反応。揺らそうと手を伸ばすが、すぐに引っ込める。この場合、不用意に触れるのは得策とは言えない。もし相手が重傷だとしたら……。
 突然、ビンセントは車に取って返す。そして、通信端末を手に取り、電話をかけはじめた。
 ダイヤルを押す。救急に電話する……と思いきや、彼はある人物に電話を掛けはじめた。
 その相手は……
「あ、もしもしもしもし、ミラーズさん? 俺、俺だけど……。あのさ、えっとね、あの、その……助けて」


TO BE CONTINUED...