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人間屑シリーズ

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「ここだよ」
 しばらく歩いた後、クロはある路面店の前で歩みを止めた。
 そこにあったのはヴィヴィアン・ウェストウッド。
 ドアを開けて中に入ると、クロは手慣れた様子で店員に話しかける。
 そういえばクロの今着ているコートもヴィヴィアンのものだった。
「いらっしゃいませ。こちらです」
 髪の長い店員が私を導くと、そこにあったのは
「さぁ、御試着してみて下さい」
 真っ白なコートと真っ白なブーツだった。
 クロの方を見れば、クロはにっこりと微笑みながら「さぁさぁ」と促している。
 私は白いコートを羽織り、真っ白なロッキンホースブーツを履く。
「すごい……サイズぴったり……」
 思わず零れてしまった。
「まあ! 良くお似合いですよ!」
 店員というのは誰にでも同じ事を言うのだろう。
 でも本当にこの白いコートと白いブーツは私にピッタリだと――自分でもそう思った。
「じゃあ、これ頂きます」
 クロはそう言って支払いをする。
 ブーツとコートで三十万近くもした。
 私はそれに驚きそうになったが、クロが恥ずかしく思うかも……なんて瞬時に考えて驚きをグッと飲み込んだ。
「じゃあ、行こう」
 そう言ってクロは再び私の手を取る。
 私は真っ白なコートと真っ白なブーツを身に付けたまま、再びイルミネーションの世界へと飛び込んだ。

「あの……クロ。こんなに高いもの」
「シロ」
 私のためらいにクロは強い眼差しで応える。
「これは僕らが自分たちの力で稼いだお金さ。親から貰ったものなんて、全部捨ててしまえばいい」
 自分で稼いだ……?
「僕たちは子供だ。だからといって、親に包まれていなければならない理由なんて何もない。シロ、君は僕が守るよ」
「クロ……」
「君の全てを僕が守る」
 そう言ってクロは私の右手を、冷たい左手でギュッと握る。
 私達の境界が薄れていく。
 そうだね、クロ。私もそのつもりなんだ。
 ……私も、あなたを守りぬく気持ちでいっぱいなんだよ。

 イルミネーションの世界はたくさんの幸せに満ちている。
 街を寄り添いながら歩くカップルの姿は、この国が平和な事を示している。
 そして私達もそんなバカみたいなカップルに見えるのだろう。私とクロも傍から見れば、幼い恋人同士にしか見えないに違いない。それがまた可笑しかった。
「ねぇクロ、私。私、映画が見たいな」
 私がクロにそう言うと、クロは歩みを止める。
「何が見たいの?」
「バカなカップルが喜びそうな映画」
 私がそう言うとクロは本当に愉快そうに笑って、映画館の方向へ歩き始めた。
「それは良いね。僕たちもバカなカップルになろう」
 なんて言いながら。



作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文