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人間屑シリーズ

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二日目



 一週間の休暇届けを出すと少しばかりのやり取りの後、それが受理された。
 この状態の妻を一人で家に置いておくわけにはいかない。そして何よりもしも外出なんてされたら事だ。浮気相手のあの女との関係は、金でなんとか話がついた――が、しかし油断するわけにはいかない。

 何故なら俺の職業は刑事だからだ。
 刑事自らこのような事件を引き起こし、妻が錯乱してしまったなんて事が世間に知られてはマズいのだ。マスコミの恰好のエサにも程がある。
 それに何より俺が今担当している事件は、“一千万で殺人”を餌にしたねずみ講だ。何者かが“死にたい人間の命”を一千万で買ってくれるらしい。組織の背後には暴力団も政治家も宗教も何も関わっていないらしく、その為主犯格を特定するのが非常に難航している。
 ……どうでも良かった。
 仕事だから色々と調査はしていたが、死にたいやつは勝手に死ねばいい。
 俺がチームから少しばかり抜けたとして、それによる捜査の遅れなど知った事では無い。俺にとっては妻の奇行の方が、余程切羽詰まっている事象なのだ。

        *

 妻の為に食事を作る。
 なるべく食べやすいように小さく素材を切る。米は柔らかく炊く。
 自炊などした事が無かった。いつも妻に任せきりだったから。
 鍋でスープを煮込んでいると、妻の「ぽこぉー」という悲しげな声が聞こえた。火を止め、ソファーに座っていた妻の元へ駆け寄ると、妻の周辺からは吐き気を催す臭いが発せられていた。
 ――妻は脱糞していた。
 妻のスカートとファブリックのソファーに茶色い筋がついていた。
「……」
 絶句してしまった。
 どうしていいのか分からない。だって妻はまだ三十六なのだ。介護なんて……頭の片隅にすら無かった。

 妻を風呂に入れる。着替えさせる。糞尿を片付ける。掃除をする。食事を作る。妻に食べさせる。それだけで一日が過ぎていく。妻からは目が離せない。
「ぴーぽこーー」などと言いながら宇宙と交信し続ける妻を恨めしく感じた。
 どうして俺が……こんな……! そう思う度に過去が俺を責める。

 ――そう、浮気をしたのは俺なのだ。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文