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人間屑シリーズ

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「あの日は妻と娘はデパートに行っていて、僕は一人で留守番をしていたんです。最初のうちはテレビなどを見て過ごしていたのですが、ふと妻が活けてあったガーベラが目に入ってしまいまして。時間的にはギリギリでした。すでに四時を回っていましたから、いつ妻達が帰ってくるともしれません。しかし、そのガーベラは余りに美しく、僕は“ああ、花瓶になりたい!”という衝動を抑える事が出来ませんでした」
 オッサンはチンコに鈴を挿したまま視線を遠く遠く過去にはせる。
「急ぎ裸になり、ガーベラを一本手に取りました。震える手で尿道に挿し込んで行くと、この醜い僕が美しい花瓶になれたのです。恍惚。まさに恍惚の瞬間でした。しかし次の瞬間、それは絶望に変わりました。夢中になっていた僕は気付かなかったのですが、いつの間にか妻と娘は帰宅し、僕のいるリビングに入ってきていたのです」
 俺と先輩は黙ったまま耳を傾け、オッサンは言葉を紡ぎ続ける。
「二人は驚きの余り、声も出せないようでした。ドサリという、妻がデパ地下で買ってきた惣菜が床に落ちる音だけが響きました。惣菜は僕の好きな蟹クリームコロッケでした……」
 か、悲しすぎるっ。なんなんだこの話は。しかし何か口を挟んで茶化すような気にもなれない。
「僕は恐る恐る二人に近づきました。何か言わなければ……そう思いながら近づくと、娘は僕に向かって盛大にゲロを吐きかけました。美しい花瓶から一気にゲロまみれの父親です」
 そこまで語ると、オッサンは柔らかな視線を俺達に向けた。先輩はそんなオッサンの視線を受け止めると、今がチャンスとばかりに口を開いた。
「なんで生きてるの? 私なら耐えられないな。H@RuToさんは強いね」
「えぇ、えぇ、そう思われるのは当然です。しかし僕は辛い時は全て、そういう“プレイ”だと思うようにして生きてきたのです。だから、その時もその思考が働いてしまいました。“妻に18年ごしに性癖がバレた挙句、最愛の娘の嫌悪感のこもったゲロに塗れるプレイ”だと、そう思ったのです」
 そこまで言うとオッサンは、先輩の傷だらけの脚に視線を落とし、次に俺の目をそっと見つめてきた。
「そういう“プレイ”だと思ってしまえば楽なんですよ。現実じゃないような、そんな気分にすらなれて、どんな苦痛も苦難も乗り越えられてしまうんです。ホントですよ?」
 そう言うとオッサンは温かな父親の顔で笑った。その顔は本当に優しいものだった。
 だがそんな心の持ち方一つで苦難に立ち向かえるものだろうか。バカバカしい、というよりそもそもがバカ丸出しの話だった。なのになぜか妙に心が揺らいでしまっている俺がいる。バカバカしくてしょうがないのに、だ。
「おっと、しんみりしてしまいましたね。コレはいけません。もう一曲まいりましょう!」
 俺の雰囲気が変わったのを察したのか、そう言うなりオッサン――いやハルトさんは再び腰を振り出した。チリンチリンチリン……チリンチリン……と、メロディーを奏でながらハルトさんは歌い出す。
「まっ赤なちっんっぽーのー。変態のボックー。いつーもみーんーなーのー。わーらーいーもーーのーー」
 ハルトさんは歌う。かくも自虐的な歌を。それを聞きながら先輩は笑い、そして俺は何故か泣いていた。
  

          残り、三日



作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文