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製作に関する報告書

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これは事実です。それを私に言わせる自分たちに非があるとは考えないのか。
 
『自分に落ち度はなかったか?』
 
と考える自省の心は相澤氏にも柴田氏にもないのか。だとすれば、それはやはり人格障害ではないのか。それとも、私のように『会社を潰すのはよろしくないこと』と考える人間が間違っているのか。彼らはあるいは、
 
『会社を潰すのは幸せでかっこいいこと』
 
と考えていたのか。
 
『男の価値は自分が所属する会社、組織をいくつ潰したかによって決まる』
 
という信念に基づいて生きているのであれば、それは、私は彼らを侮辱したことにもなります。柴田氏たちは信念をもって、輝かしくKIDを破滅させた。それは彼らの誇りであり、その信念に基づいて今また5pb.も潰そうとしている。だとすれば、私のように会社と作品をプラスにもっていこうと考える人間は絶対悪です。
彼らが本当のところどういう信念を持っていたのか今となっては分かりません。彼らは話をしていても、これはFDJの市川氏もそうなのですが、素直に心を開いて話をするということがありませんし、共感することが私にはできませんでした。5pb.のスタッフとの話し合いは何というか、肉体はあるが魂はすでに滅びた死霊の群れと話をしているようで、ですから、私としても最初は腹を立てていましたが、話をすればするほどになんともいえない薄気味の悪さを感じるようになったものです。
 
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それはともかく、私は、そういうことであればと謝罪をいたしました。ただ、私のほうでも腹には据えかねておりましたから、当然反撃もいたしました。つまり、
 
 『名前を変えると簡単に仰るが、逆の立場であれば、あなたはどうなのか。相澤氏や輿水氏が腹を立てているというが、逆に、相澤氏や輿水氏があげてきた原画なりキャラ設定を私が勝手に書き直したら、それに対してはどう考えるのか。髪の毛の色が気に入らないからピンクにしました、制服が気に入らないので水着にしましたといったら、相澤氏も輿水氏も不愉快には思わないのか。だいたい、作品は数人のライターの分担ではなく、全て私が書くのであって、私のシナリオである。侮辱侮辱とことあるごとに喚くが、そういう私を侮ってもいいのか。私も何も、百パーセントこちらの要求を通すつもりもないし、小さな変更を受け入れる用意はいくらでもある。だが、三ヶ月も放置するのはやはり企業としておかしい。まともな社員ではない』
 
私はこの仕事はもうならないだろうとその時には思っていました。柴田氏は私の発言に対して、
 
『そんなのは関係ない』
 
という態度に終始しておりました。自分が侮辱されることは許さない(その侮辱も事実を指摘しているだけなのですが)。自分はいくらでも仕事を遅らせる。けれど他人の批判は許さない。柴田氏はそのような唾棄すべき低劣な人物でありました。一方FDJの市川氏は、
 
『膿みを出し切るためにもっと言いあってください』
 
などと一人で仕切って悦に入っておりましたが、本当に、風周りの読めない人物というものはどうにもならないものです。そして柴田氏は我が意を得たりといった具合に、
 
『だいたいおまえは救世主面しやがってムカツクんだよ』
 
と私に言ってきました。救世主面も何も、私以外の誰もシナリオを書く人間がいないのでやむにやまれずにやっているのであって、それほど言うのであれば、そちらできちんと最初に指示を出してくれと言いたいところでした。何の指示も出せない。顧客の獲得に何一つ有効な手も打てず、何の策も無いのは柴田氏のほうであって、で、あるからこそこちらで動かなければならない。それを言うに事欠いて、
 
『救世主面しやがって』
 
とはどういうことなのか。私は当時は腹を立てましたが、ですが、今は思うのです。結局、柴田氏は自分が人生において一度でいいから『救世主』というものを演じたかったのではありませんか。自分が救世主になりたい。そういう役回りを演じてみたい。喝采を浴びたい。日頃からそういうことを考えてなければ、なかなか『救世主』などという大それた言葉が出てくるとは思えませんから。私も『救世主』という言葉そのものを実生活の中でほとんど使わないです。いずれにせよ、まともな感性の持ち主はそのような気のふれた幻想を抱かないと思うのです。よく判りませんが、柴田氏には自分が主導権を握って作品を成功に導き、以後5pb.での地位を固めていこうとか、そのようなライフプランがあったのでしょうか。うるさいだけのFDJの市川氏を追い出し、自分がエグゼクティブプロデューサーになろうという野心もあったのかもしれません(繰り返しになりますが彼らは、5pb.が連続で赤字だったことを知っていました。その上での野心です。本当におかしな人々です)。会社を救って重役になるとか。分際を知らぬ誇大妄想でしょう。いずれにせよ、ことここにいたってはもはや破綻は決定的でした。
 
『こんなにエキサイトするとは思いませんでした』
 
とFDJの市川氏はとぼけたことを言っておりましたが、この人もちょっとどころか相当頭がおかしかったのでしょう。とにかく、柴田氏は暴言を重ねましたが、私も言いたいことは言いましたから、満足しておりました。
 
『KIDは潰れた。なくなった。それは事実。事実は動かせない。技術も意地も関係ない。潰れたんだから』
 
私の言わんとするところはそういうことでした。ただ、私の本当の相手はチーフグラフィックの相澤氏であり輿水氏でありました。彼らが影で不平不満を言い連ねているということでしたから、本当であれば、彼らが出てこなければならない。けれど、二人は会合には出てきませんでした。
 
『二人とも忙しいから』
 
とFDJの市川氏は言っておられましたが、私は面会に訪れた際にチーフグラフィックの相澤氏が同僚と笑いながら食事に行く姿を見ていました。
 
『飯でも食いに行こうぜ』
 
と私に気がつかず会社前で同僚と肩振り話をしている相澤氏を私は見て知っていました。(相澤氏は年末にコミケに参加しており、その理由を私は社用と聞いていましたが、実際は自分の同人誌を売るための参加であったこともあとで私も聞きました。私は彼こそが真に侮辱に値する人物だと今では思っています)。
 
とにかく、製作陣で真にメモオフという作品の未来を考えているのはどうやら私だけのようでした。あとの人々は……そうですね。会社を潰すことが幸せで立派なことと思っている人たちですから、メモオフという作品がどうなっても良かったのでしょう。
 
『俺のメモオフ、僕のメモオフ』
 
と叫ぶ割には結局はメモオフという作品は彼らのものにはならない。なぜならば彼らはただの下働きでしかないから。いくら念じても自分に振り返ってくれない美人に対する怒りのようなものを彼らは実は作品に対して抱えていたのかもしれません。ですが、そんな彼らの感傷は私の知ったことではありませんでした。
 
作品名:製作に関する報告書 作家名:黄支亮