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製作に関する報告書

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『名前ぐらい、2日3日で作ってくれ』
 
といったところでした。ですが、柴田氏を含めて5pb.の人は、仕事が非常に遅く、わざと足止めをしているのではないかと思うほどに愚鈍でした。そのわりには仲間内で旅行に行って物見遊山をしてみたりする。そして、ここで問題となるのですが、彼らはすでに5pb.という会社の状況、なりたちというものを知っていたのです。つまり、
 
『5pb.の親会社であるTYOからの支援は、三期(三年ということですね)連続赤字の時点で打ち切られる』
 
5pb.という会社はTYOというグループに属しており、設立は2006年だったと思います。そして、5pb.は二期連続で赤字を出していたのです。柴田氏を初めとするKIDの残党が5pb.に合流したのは一期目と半分が過ぎた頃。そして、メモリーズオフのアンコールの赤字を出したのはまさに、二期目の出来事でした(このあたりの財務内容についてはTYOのホームページにあるIRライブラリで誰でも参照することができます)。私がメモリーズオフ6の製作に呼ばれたのはちょうど、二期目の赤字が発表された時分。つまり……あと一年で結果を出さなければ5pb.は親会社からの支援を打ち切られ、解散消滅ということになる、そういうことだったのです。FDJの市川氏はもちろんそのことを知っており、また柴田氏たちも理解しておりました。知らないのはいつものように私だけだったのです。
 
『そんなことを外注に教える必要は無い』
 
と、後にFDJの市川氏は開き直って私に言いますが、そういうことはなるべく早く相手に知らせたほうが良い。何かあればまた支払不能であるとか債権の未回収ということになるわけで、結局恨みを買うのは自分なわけですから(※これも余談ですが、ヒューネックスであるとかニトロといった会社は5pb.の内情を知らされた上で提携なりをしていたのですかね。だとすれば随分と剛毅豪胆な会社だと思います。この注記は本年の補足です)。本当にFDJの市川氏は知れば知るほどに無責任で不愉快な人であったと思います。
 
とにかく5pb. gamesという会社には設立当初から死亡時刻が予定されていました。FDJの市川氏もプロデューサーの柴田氏も、
 
『どうせ親会社は俺たちのことを切れやしない。なぜならばメモオフは看板タイトルであるから。それにTYOのほかのゲーム部門はひどいものしか作れない。その中では俺たちの作品はまだ本数が出てるのだから、俺たちだけは生き残る』
 
という自信というか自負があったようです。ですが、これは私などから言わせれば驕りもいいところだったと思います。メモオフという作品は非常に微妙なラインにある作品でした。単体で会社を支えられるほどの力はもはや残っていない。メモオフという作品を年間一本作って、その上がりで会社の全員を食べさせていくだけの力は作品にはもはやない。かといって、これに変わる作品を生み出す力はプロデューサーの柴田太郎氏にも、グラフィックチーフの相澤こたろー氏にも、FDJの市川和弘氏にもない。実際、いろいろなゲームが5pb.からリリースされましたがすべて赤字でした。

結局のところこのような一連の作品は社長である志倉千代丸氏が楽曲を提供する見返りとして自分のところでゲーム化をするという、いわばバーターであったのでしょう。お金の流れは、
 
『ウミショー等の作品権利者→(音楽の制作費)→5pb.→(ゲーム化に当たってのライセンス費)→ウミショー等の作品権利者』
 
と還流することになっていたのでしょう。あるいは逆かもしれません。
 
『5pb.→(ライセンス費)→権利保持者→(音楽制作費)→5pb.』
 
後者のほうがむしろしっくり来る。志倉氏がテレビアニメ等の仕事を取るために権利保持者にゲーム製作とワンパッケージで営業をかける。権利者に5pb.が先に上納金を納めて、そこから志倉氏が楽曲制作費をバックしてもらう。すべては帳簿上でのお金のやり取りで実際には金銭の授受はなかったのかもしれません。悪い言い方をすれば循環取引の温床。とにかくここで問題なのは、作品の権利者から入ってくる社長志倉氏への楽曲への報酬、あるいは、それを売った時の利益が、マンガなりアニメの原作者に払うライセンス費とは必ずしもイコールではないということでしょう。帳簿を見ていないのではっきりということはできませんが、5pb.のこのバーター取引で利益が出るということはなかった。ほとんどの場合持ち出しだったはずです。でなければ、会社が赤字になるわけがないですから。
 
5pb.が講談社等に支払うお金 > CDの売上

という構図。結局、5pb.という会社は社長志倉氏の道楽でやっているような会社であり、そのような会社ですから利益を出せるアテなど最初からなかったのでしょう。とにもかくにも構造的に5pb.という会社で作られるゲーム作品によって会社が浮揚するということはありませんでした。

『製作に時間がかかり、アニメの放映終了に間に合わない、それこそがウチで作っている作品群の失敗要因だ』
 
とプロデューサーである柴田氏は言っておりましたが、それはまったく見当はずれな見立てでした。道楽でやっていけるほど業界は甘くないという、ただそれだけのことだったのです。説明がやや迂遠になってしまいましたが、私が言わんとすることはこういうことです。
 
?メモオフには、スタッフ全員を養いきるまでの力はもうない。
?ほかのゲームは構造的に赤字。回復することはない。
 
ですから、
 
『親会社は俺たちを切れやしない』
 
というロジックは破綻しているのです。何を根拠に彼らがそのようなことを言うのか、私にはよく分かりませんが、
 
『自分たちだけは大丈夫』
 
 とは必ずしも言いきれない。ですが、柴田氏もグラフィックのチーフである相澤氏もそのあたりのことは呑気というか、楽観的でした。
 
 6
  
話がだいぶそれてしまったので(それでも説明はしなければならないことなのですが)、メモオフの話に戻すとします。とにかく会社にはそのようなデッドラインがあるということは事実でした。そのことをFDJの市川氏は多少は気にしていたようでしたが、本心から状況を変えようという努力をしているかと言えば、そんなことはなかったと思います。ですからこそ、
 
『名前ひとつ決めるのにそんなに時間をかけないでくれ』
 
という私の発言になるのです。さっさと決めてさっさと動く。そうしないと困るのは実は私ではなく、彼らだったわけですから。ですが、5pb.の人々はそうしない。やる気が無かったのか、怠惰だったのか、あるいは私が疑っているように、
 
『外注がぐうの音も出ないぐらい素敵な名前を考えてやる』
 
と、じっくりと考え過ぎていたのか。いずれにせよ能力のない人間の熟考に意味があるとも思えませんが。あるいはもっと邪悪な意図を彼らは持っていたのかもしれません。たとえば、
 
『サボタージュをすることでサイバーフロント、さらには5pb.に打撃を与える』
 
作品名:製作に関する報告書 作家名:黄支亮