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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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BSS89 嘔吐

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PG12で既に吐く。R15は見れない。私はホラーというものには全く関心が働かない。怖い、というより気持ち悪い。お化けはいてもいいと思う。ただしQ太郎限定で。でもホラーは必要以上にお化けのグロテスクさを描きすぎている気もする。
 だがその嫌いなグロテスクな幽霊というものになっていた。鏡の前に来るといつも嘔吐する。幽霊なのに。この世に未練は残しているがそれは実に単純なこと。
 彼が死なない。
 私は彼とあれほど長くつきあっていたのに彼は、彼は他に女がいた。しかも、おまえはT.ウッズかよって言いたくなるほどの女の遊び相手がいた。車の中で私はそのことを悶々と抱えながら、彼を問いつめることも、そもそも彼に聞くことすらしなかった。
 ふと見ればガードレールの先は崖。蒼い、とはとてもいえないゴミのプカプカ浮かぶ海が、そこにあった。漂着ゴミ。嘔吐したあとのビチャビチャとそこにある胃液・というか下呂のように見えるそれに私は吐きそうになって、そのとき毒づいた。

 「彼とともにこのまま落ちよう。そうすれば彼は私のものよ。もう誰にも渡さない。彼は私の彼氏なのよ!」

 私は彼のハンドルを急にひねった。驚く彼をよそに車はガードレールを突破。瞬く間に車は高度の二条に比例して落ちてゆく。あれほどの高度なのだ。まず無事ではあるまい。死ぬ前の私の記憶からしても死ぬ以外選択肢にはないだろう、と思った。
 だが現実は違った。科学者も驚くほど、しかしそれはまさしく私が好きな彼でもあったのだ。屈強な男。頑強な男。柔道かとしての強さを誇る男。それだけに衝撃に対する耐性があった。
 彼を見つけだして殺してやる。幽霊なんだ呪いは得意だ。私は彼を捜して霊能力でPCを立ち上げ、個人情報を開く。ちょっとの技術で国際情報のすべてが手には入るのだから、ハッキング技術は日本人の生きる糧にすべきかもしれない。もちろん、それをやると中学生がエッチな動画を見れなくなるが。
 そしてついに見つけた彼の家にはなぜか看板。
 「出家いたしました。現在この家は空き家です。住んでくれる方を募集しております」

 私は彼のいるお寺を訪ねた。住職一人が、すなわち彼、という寂れた寺。地方にはまだまだたくさんある。寺はあるが住職が以内というのがいろいろとあるのだ。そして中には法人ごと売られるパターンすらある。宗教法人は全く持って謎めいている。
 「来たのかい」
 「え」
 「こうして髪を剃って坊主になったんだ。修行していないはずもないだろうが」
 「…えーと」
 「知ったんだろ」
 「…知りました」
 「ムカついたのか」
 「というより占有したくなった」
 「…プレイボーイなのに?」
 「それでも好きだという気持ちが消せなかった。あなたが優しかったことだけは紛れもない事実だったから。死の世界に行ってしまえばあなたもあきらめて私に夢中になるかと思った」
 「…ごめん」
 「…案外素直だね」
 「いや、…おまえに迷惑をかけてしまったというか」
 「何もされてないよ?信頼裏切られたけどさ」
 「…おまえがいると言うことの重要さを認識したよ。多くの人は心で判断しないものだと。本当に思ってくれる人は少なく限られた人たちのみ。おまえがいなくなってぽっかりして、…出家してみた。浄土真宗は悪人正機説の親鸞上人が説いたのをベースにしているからな。悪人らしいチョイスではあるだろ」
 「やめてよ悪人だなんて」
 「悪人じゃないか俺は」
 「なんか責める気なくす」
 「…おまえは本当に優しいな。もし抱けるならもう一度抱け抱きたかったなあ」
 「あはは、今の私はダークマターでできてるからね。もしかしたらダークエネルギーの方かもしれないけど」
 「俺たちの知らない宇宙を構成する96%というやつか」
 私は少しバカだったかもしれない。彼はここまでいい人だった。気の迷いだよきっと。
 「ねえ」
 「何だ」
 「お坊さんになったんだし…私を成仏させてよ。死んだ人を正しい方向に導くのがお坊さんでしょ」
 「仏教が正しいかどうかはわからないぞ。信じているからこうしているだけで、正しいとは一言もいっていない」
 「でも成仏させる意志ぐらいは見せてよ」
 「…やってみるか」
作品名:BSS89 嘔吐 作家名:フレンドボーイ42