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鋼鉄少女隊  完結

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第二章 帝国の滅亡



 雪乃は高校二年の新学期早々、停学となってしまった。雪乃の祖母が学校からの呼び出しに応じ、正式に停学を宣告されて帰ってきた。
 祖母の恵子は意外にさばさばとした顔つきで、帰ってきて思い出し笑いをした。
「校長先生ね、あんたのこと爆弾だと言ってたわ。言い得て、妙なりというとこね」
 雪乃は神妙に頭を下げた。
「お祖母ちゃん、ほんとにご免なさい」
 祖母はふっふっふと笑う。
「あんたが小学校の頃に比べたら、こんなの平和なものよ。たまには、これくらいあってもいいかな、なんてね」
 雪乃は冷や汗が出た。小学校の頃は、三日にあけず近所の人が怒鳴り込んで来ていたのだ。雪乃の祖父、祖母は平身低頭の日々だった。
「小学生のあんたが、近所の男の子らをぶん殴り、突き倒し、やれコブできた。鼻血出したと言って、親御さんがよく怒鳴り込んできたよね」
 雪乃は身も細る思いだった。ほんとに、祖父、祖母には迷惑かけたと思っている。
「気にしなくてもいいのよ。私ら、それが嬉しかったのよ。あんたは両親を一度に亡くして、小学二年のときは、毎日泣いてたよね。私らも辛かった。家に引きこもってばかりだったけど、三年になってからは活発な子になって、外走り回るようになって嬉しかったのよ」
 祖父は雪乃を池や川に連れて行き、メダカを捕ったり、ザリガニを捕ってやった。雪乃は次第に元気を取り戻して行った。それから、祖父と釣りや、ラジコンで模型のボートや戦車を操縦したりして、すっかり祖父の趣味を引き継いでしまったのだ。
 祖母は買ってきたおはぎを皿に載せて、茶をいれながら、思い出したように言った。
「このあいだ、道で少佐に会ったよ。背が高くなってしまっててね。百八十五センチあるんだって。野球部でピッチャーやってるって言ってたよ」
「少佐?」
「ほら、あんたが小学生の時、うちに何人も遊びに来てた男の子の中で、あんたが少佐って呼んでた子よ!」
「ああ、丸岡」
「そうそう、丸岡君だ」
 丸岡少佐。木登りが特にうまかった。全ては子供の頃の他愛ない遊びの世界だった。
 雪乃は小学三年から、突然他の子供達に比して、ぐんと背が伸びた。小四では百五十五センチもあった。それで、近所の普通サイズの男の子達で、喧嘩で雪乃に勝てるものは居なくなった。雪乃は近所の同じ学年とそれ以下の学年の男の子達九人を組織して、「鋼鉄少年隊」というグループを作った。雪乃が隊長だった。
 ようは、近所のガキ大将になったのだが、祖父がミリタリーマニアでもあったため、家には軍事関係の雑誌や図鑑がごろごろしていた。雪乃はそれ参考にして、軍隊のような階級を部下に与えた。雪乃の階級は元帥だった。
 鋼鉄少年隊の日々の活動は、虫捕り、魚捕り、野球、サッカーだった。雪乃は冬はジーパン、夏は短パン、日焼けした褐色の肌で走り回った。髪はさすがに祖母が男の子の髪型は許してくれず、美容院でショートにしていた。雪乃が鋼鉄少年隊にブラックバス釣りを広めた。自転車で隊列を組み、近所だけではなく、遠くの川や池に遠征してバス釣りをやった。雪乃は祖父に習ったこともあったが、子供達の中では釣りの名人として、尊敬を集めた。
 雪乃の五年の時は、鋼鉄少年隊の黄金時代だった。雪乃の祖父に引率を頼んだが、海や川に、釣りを兼ねたキャンプに行った。近隣の小学生同士の草野球では勝率九割を誇った。雪乃がピッチャーで四番だった。
 それも、六年の五月で終わった。雪乃は小学校三年のときから数えて、始めての敗北を味わった。同じ六年生の男子に喧嘩で負けたのだ。事の起こりは、バス釣りに行く近くの池の釣り台をめぐっての事だった。それは、ヘラブナ釣りの老人が設置したものだった。雪乃がこの台を譲り受けたのだ。息子夫婦と同居するため、遠くに行く老人が顔見知りの雪乃にこの釣り台をくれると言った。雪乃はこの台に「鋼鉄少年隊所有」とペンキで書いた。ここから、ルアーを投げるとバスがよく釣れたのだ。

「雪乃達が釣りに来たとき、鋼鉄少年隊に属さないものが釣っていたときは排除した。そして、六年生の五月、何度も雪乃達に排除されていた他の町内の少年のグループと公園で対決することとなった。
「あれは、鋼鉄少年隊のものだと言ったでしょ! 私達が使ってないときは、あんたらも使っていい。でも、私達が来たら、さっさと場所を空ける。そういう取り決めでしょ!」
 雪乃が詰め寄る。向こうのグループのリーダ格の少年が、後すざりする。その子は以前に、雪乃に尾てい骨に膝蹴り食らって、地面に伸びてしまったことがあった。だから、雪乃のことを恐れていた。しかし、その日は何故か強気だった。
「うるさい! 台がお前らのもんだと誰が決めた。あれは、山田の爺さんが置いて行ったものだ。誰のものでもない!」
 雪乃は一歩前に出る。相手の少年はびくっとして、三歩下がる。
「あれは私が山田さんにもらったという証拠の書き付け、何度見せたらわかるの!」
 雪乃は封筒から、墨で文字の書かれた半紙を取り出す。そこには、村井雪乃に釣り台を譲渡すると書いてある。山田老人の署名もある。雪乃はこの老人の家に時々行って、魚拓の作りかたを習っていたのだ。だから、釣り台をくれると言ったとき、頼んで譲渡書を書いて貰ってあった。
「うるさい! 俺たち、山田の爺さんの字、知らないから、本物かどうかわからん! そんなの、適当に他の大人に書いてもらったんだろう。信用しないぞ!」
 雪乃は埒が明かないので、実力で決着をつけようとした。少年はわっと後に逃げた。
「おい、この男女! 今日は負けはしないぞ。今日はお前に勝てる奴連れてきたんだ!」
 雪乃は相手が、いやに強気な理由がわかった。きっと、中学生でも連れて来たのかと思った。でも、雪乃も強気だった。相手が中学生でも、負ける気はしなかった。しかし、出てきたのは、背の低い少年だった。雪乃と同じ小学校の六年だが、喧嘩が強そうには見え無かった。リーダ各の少年が念を押す。
「おい、お前、ほんとに絶対こいつに勝てるんだな?」
 その少年はへらへらと笑った。
「女に勝つ方法知ってるんだ。自分よりでかい女でも勝てるぞ!」

 雪乃はそれをはったりだと思った。その少年に掴みかかり、地面に叩きつけようとした。少年の頭は雪乃の肩くらいしかないいチビだった。しかし、少年の頭が雪乃の胸に当たった。雪乃は、うっ! とうめいて少年を放した。少年はすかさず、雪乃の胸を思いきり殴った。頭の先までまで響く激痛が走り、雪乃は倒れてしまった。相手方の少年達がわっと歓声を上げた。
 雪乃を倒した少年が仲間達に得意げに語り始めた。
「女やっつけるにはな、胸殴るんだ。胸と言ってもな、乳だ。乳殴るんだ。乳が女の急所だ。見ろ、一発で倒れただろ!」
 雪乃は心の中で呻いた。
『ちくしょう! なんで、そんなこと知ってやがる……』
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫