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鋼鉄少女隊  完結

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「雪乃ちゃん。あなた今もだけど、小学生の頃すごく可愛かったんでしょ。小学生の女の子ってね、自分より可愛い子とかきれいな子はすごく嫌いなの。辛かったでしょ。でも、私があなたのお友達になるよ。年も同じ十六だし。私のほうが三ヶ月、お姉さんだけどね。二人きりのときは、雪乃ちゃんか、ユキノンって呼ぶよ。だから、私にもあだ名つけてよ」
 雪乃は戸惑いながらも、思いついた言葉を発する。
「麻由だからマユユとかは……」
 突然、麻由が体に電撃が走ったかのように、凍りつく。
「マユユ! いやー! それだけは、嫌!」
 雪乃はびっくっりして、言葉が出ない。
「あー……、ごめんね。マユユって聞くと、私駄目なの。ほんとは小学生の頃、私、マユユって呼ばれてたんだ。でも、嫌な思い出があるの……。
 小学五年の時、転校生の女子が入って来て、その子の名前は、真由だったんだ。その子親から結構お小遣いもらってるらしくて、いろんな物買っては、クラスの女の子にプレゼントし出したの。可愛い飾りの付いたヘアピン上げたり、カチューシャ上げたりして、自分の周りのクラスの女の子を手なずけて行ったの……。
 その子自分のことを、仲のいい女の子達にマユユって呼ばせるようになった。それから、クラスに二人マユユがいたらややこしいから、どちら一人がマユユって名乗ることにしようって、決闘することになったの」
 雪乃は目を丸くする。
「えっ! 怪我しなかった? 怪我させてしまったの?」
「何言ってるのよ! 小学生の女の子がそんな暴力的なことするわけないでしょ。家庭用ゲーム機でダンスサイトってゲーム知ってる?」
「知ってる。床に敷くマット型のコントローラが付いてて、画面の指示どうりにマットの上で右とか左とかのステップ踏んでゆくやつでしょ?」
「そう。それよ。向こうの子側の女の子達と私側の女の子達も見守っていたのよ。そこでどっちが高得点だせるかってね。三本勝負でやったの。私、負けちゃった。それも二本取られてのストレート負け!」
 麻由が雪乃の腕にしがみ付いてくる。しかし、雪乃はもうそれを外そうとはしなかった。
「それでね。相手の子、私に『もうマユユって名乗らないで!』って言ったの。それから、私、小学校卒業するまで、『ママユ』って呼ばれたの。辛かった……」
 雪乃が麻由を慰める。
「ママユも可愛いと思うけど……」
「何言ってるのよ! 最初からママユなら納得もするけど、マユユを取り合って負けてのママユよ。屈辱ものよ!」
「それから私、ダンスゲームのソフトもコントローラのマットもゲーム機も従妹にあげてしまったの。でも街中でゲームセンターの前通ると、あのダンスゲームやってるの。私、走って通り抜けた。だから、研修生になってダンスのレッスン受けたとき、私、冷や汗出たよ。先生の教えてくれることなんか、何にも頭に残らなかった。ただ、歌の練習だけは必死でやったけど……」
 雪乃はトラウマってやつは、誰にもあるものなんだと思った。麻由の歌は音程も完璧で、リズムもしっかり取れていた。最初からダンスに打ち込めていたら、この人って今頃、ピュセルのセンターで歌い踊れてたんじゃないかと思うとせつなくなってきた。雪乃は麻由の手の甲に掌を重ねてやる。
「じゃあ、マユリンってどう?」
「いいねぇ! マユリンか! ユキノンとマユリン。そうだ、私達、もうバディだよね!」
「バディって?」
「前にね。従姉とスキューバダイビング習いに行ったの。私、直ぐ辞めてしまったけどね。その時の講習で教えてもらったんだ。バディって本来、男同士の仲間のことを言うんだって。でも、スキューバで潜るとき、性別関係なく、二人一組で相手のことをバディって呼ぶの。バディシステムって言うんだって。相手が怪我したりしたら、救助するし、一人のボンベの空気が無くなったら、二人で一つのボンベを交互に使いながら、帰ってきたりする関係なんだって」
 麻由は雪乃に向かい合う。左手を上に上げて、掌を向ける。
「バディだよ」
 雪乃はそれにあわせて右手を挙げて、無言でハイタッチする。


作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫