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鋼鉄少女隊  完結

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 玉置がマウスをクリックする。インターネットの動画サイトに繋がっていたらしく、ネットの動画投稿サイトの投稿ビデオが開始される。映像には六畳くらいの部屋が映っている。うしろに赤と白の布のベットカバーの掛かったシングルベットが見える。黒いミニのゴスロリドレスを着た女がエレキギターを構えている。髪を後で一本結びにしている。ポニーテールよりも結び目が低い位置にあるやつだ。顔にはドミノマスクと呼ばれる、ヨーロッパの仮面舞踏会で使われる目だけを覆うマスクを付けている。投稿者はアルファベットの小文字で「ranmaru」、ランマルというらしかった。投稿日付は昨年の九月となっていた。演奏が始まり、日本のアニメ主題歌で、メロディックスピードメタルの曲を弾いている。ギターの音の疾走感はなかなかのものだった。
 雪乃は思わず目を伏せてしまった。玉置がにやにや笑っている。
「これって、もしかしたら君じゃないの?」
 雪乃はがばっと頭を下げる。
「すいません。去年アップして、そのまま削除するの忘れてました」
 玉置は笑い出す。
「そうかやっぱり君か。ランマルは。オーディションで演奏聴いたときもしかして、そうじゃないかなって思ってたんだ。すごいよね。一年経ってないのに二百万アクセス行ってるよ。それにコメントも日本語、英語、ドイツ語、フランス語と世界中で見られてるよ」
 雪乃のほうがびっくりする。去年の秋、戯れに自分で撮影録音してアップしたのだが、直に飽きてしまってほったらかしにしていたのだ。
「ただ、すごいね。カテゴリー、変態ギタリストシリーズの中に投稿したんだね。ここ女装したのや、裸の男がギター演奏やってるゲテモノ演奏者が集まってるコーナだよね。でも、変態だけどすごいテクニシャン達がいるよね。つまり君は男に見られたかったわけだ。本物の女の子が女装したギタリストに化けてやってたんだ。ややこしいね。学校や、友達に投稿したのが知られたくなかったわけ?」
 雪乃は肯く。
「はい。学校にはばれたくなかったので……」
 玉置は愉快そうに笑い続ける。
「でも、コメント欄では中学生の男の子が女装して弾いているんじゃないかって、もっぱらの噂だね。体つきも手も女の子みたいに華奢なのは、まだ大人になりきっていない発達途中でみたいに解釈されて、中学生天才女装美少年ギタリスト、蘭丸ってことになってるよ。五曲載せてから去年の十一月からアップがないのは、きっと高校の受験勉強に忙しいからではないかってさ。結構、蘭丸のファンがいて、女装美少年好きの萌の対象になってるみたい」
 雪乃はもう一度、頭を下げる。
「ほんとに、すみませんでした。去年は、まさか私、アイドルグループに入るって思ってなかったので、ついやってしまいました。やっぱりこういうのアイドルとしては、まずいんですよね……」
 玉置も彩も社長も雪乃の平身低頭にぽかんとする。社長が口を開く。
「ああ、そういうことじゃないよ。別に万引きの証拠のビデオ画像が出てきたってわけじゃないんだから、何も気にすることはないよ。玉置君がこれ見つけてきてたんだが、明日のピュセルのコンサートツアーの千秋楽で、第十期メンバーとして君を紹介することになってるけど、その時こういうギター演奏やらせてみたいと言ってきたんだ。玉置君、説明してあげてくれたまえ」
 玉置が後続ける。
「そう、別に君を責めてるわけじゃない。こういうことも出来るんだと思ってね。ネット上の君への評価も高いし。どうだろう、オープニングアクト(前座)なみの時間はさけないけど、一曲だけギター演奏やってくれないかと思ってね。それで、今でもこのアップした曲、すぐに弾けるかどうか尋ねたかったんだ。どう、出来る? この今、再生した曲がいいんだけど。アニメ『時空戦艦ハルナ』の主題歌なんだよね。実は、アニメとかこういうの知らなくて、ネットでいろいろ調べたよ。艦長がゴスロリを着た美少女って設定だね。投稿動画のほうではボーカルは無いけど、やろうと思えばボーカルもいけるの?」 
 雪乃は安堵して肯く。
「はい。ボーカルもやりますが、男の人だと思われるように声は入れませんでした。ギターは静岡から持ってきてます。あ、この服も持ってきてます。演奏、ボーカルは一、二時間練習すると大丈夫だと思います。あ、このパーティドミノっていうのか、このマスクは実家に置いてきました」
 玉置が愉快そうに笑う。
「ドミノマスクなんて、百円ショップのパーティグッズでいくらでも売ってるよ。でも、今回はマスクは必要無い。素顔をさらして、女の子としてやって欲しいんだ。頭もこういうバンドの長髪の男がよくやってるヘアースタイルじゃなくてね。もっと女の子らしいやつでね。衣裳はこのアニメの主人公の女の子が着てる、すみれ色のゴスロリを着て貰おうと思ってるんだ。こういうのによく似たのがあるらしいから、今日、衣裳担当の人とサイズ合わせしてもらうよ。明日までには、着れるようになってるはずだ」
 雪乃は笑みを浮かべて肯く。玉置が思い出したように付け加える。
「あ、そうだ。一曲だけの予定だけど、もし観客がアンコールなんか要求してきても、元々オープニングアクトなんか予定していなくて、時間が押してるから無理なんだ。でも無碍にも出来ないので、その場合はこの曲やってくれないかな? これ一分もないし、ギターソロだし。でも超絶テクニックだけどね」
 玉置は雪乃が投稿していた別の動画を再生する。誰でも一度は聴いたことのあるクラッシックの曲の『ハンガリー舞曲五番』が流れる。ギターのネックの弦に同時に右手と左手の指を小刻みに叩きつけ、引っ掻き演奏している。
 彩が度胆を抜かれたというふうに賞賛する。
「なに、これ? こんな演奏、まるでピアノじゃない。ギターでこんなこと出来るんですね。ほんとびっくりしました」
 玉置が解説する。
「両手タッピングというやつだよ。左手でコード、右手でメロディを弾いてる。ピアノならもっと楽にやれるんだけどね。なかなかのテクニックだよ。これもOKかな?」
 雪乃はこれに関しては自信があった。
「この曲は小学生の頃からエレクトーンでよく弾いてた曲なんですけど、ギター習うようになって、ハンマリングやブリングの技術習い始めた頃からやり始めたので、今でもすくできます」
 玉置は雪乃を頼もしげに見つめる。
「よし、明日の午前中に現地でリハーサルやるからね。明日はギター忘れないように。忘れたら、会社のギター貸すけどね。使い慣れたやつのほうがいいだろ。アンプ、器材一式は用意しとくから。ドラム、ベースの音は君の作ったマイナスワンCDを使う。実は借りてた君お手製のマイナスワンCDの中にこのアニメの曲が入ってたのも、蘭丸と当たりを付けた要因だったんだよ」


作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫