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詰めの一手・問題編

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世の中では、参議院選挙が終わった。学内でも生徒会選挙が終わった。

こちらはおおかたの予想を裏切って、予想外の人物が生徒会長に就任した。
それを面白がって、選挙管理委員の裏工作があったのでは、と新聞部は『週間・ナコ学』で記事にしたのがいけかった。

 境忠義が部室に入ると、新聞部部長が怒りに任せてデスクの上のものを薙ぎ払ったのは同時だった。
 ただでさえ汚い部室に、プリントが舞う。ペン立てが音を立て転がる。
「荒れてるね」
 忠義は入り口近くのパイプ椅子を引っ張り、散らかっているプリント類を無視して、ロッカーの上のダンボール箱に手を伸ばす。
「『荒れてる』当たり前だ。代行の局長が直に来たんだよ」
 礼儀正しい事で知られる部長が、忠義の前でだけはその仮面を捨てる。
 問題の代行とは、代理実行局の略称である。ここ数年生徒会に変わり、実務を担当している。
本人たちは、学園を良くするために日々活動しているのだが、政治家の様に黒い噂がなぜか絶えない。こないだの生徒会選挙の一件然り。
「で、何て言われたの?」
 ある程度の予想はつく。
「最後通牒を突きつけられたよ。次、この手の記事を書いたら廃部だと。ふざけんな。言論の自由はどうした。憲法違反だろ」
「憲法判断早くない?」

 冗談を返しながら忠義は、ダンボールの中から目当てのものを探し当てた。埃を払いながらダンボールを仕舞い直す。
新聞部も、今の部長になってからだいぶ精力的に活動するようになった。その前までは、月に一度の学園行事の報告や、校長の話などの平和的な内容を扱うだけだった。
それが、今では週間でも発行するようになった。七古徒学園の週間文○と呼ばれるその内容のせいで、代理実行局に睨まれている。

 それでもめげずに今日まで活動してきた新聞部だが、とうとうその活動も終わろうとしていた。
忠義は、それはそれで良いと思う。ここ一年ちょっとやり過ぎた感が否めなかったからだ。それでも、三年間所属していた部活が自分が在学中になくなるというのは悲しくないわけでない。

しかし、慣れ親しんだ部を守る為に積極的に動く気にはなれなかった。進路が決まっていたから。
だが、そんな事にお構いなしな部長は、
「絶対に代行の奴らに一泡吹かせてやる」
 と、意気込んでいる。

部長がケータイを操作し、どこかへメールを打っている。素早いキーさばきの様子を見ながら、忠義はそろそろ退室しようと背を向けた。
「ちょっと待ってよ。先輩が行くって先方には連絡済みなんだ」
 あわてた様子で部長が、早足にデスクを飛び越え、腕を掴む。

「はぁ? オレはもう引退したつもりなんだけど?」
 三年生は、この前の『月刊・ナコ学』で引退宣言をしていたはず。紙面の端に、小さなコラムをみんなして書いた記憶が忠義にはある。
 だから、だからさ。と、部長は続ける。
「これからは、フリーって事だろ? お願い、可愛い後輩の頼みだと思って、この通りだ」
 打算的で可愛くないな。忠義はその言葉をぐっと堪えて、ため息を吐く。

「わかったよ。じゃあ、フリーだから原稿は高く売り込むよ?」
 忠義のつまらない冗談に、「商談成立」の一声で答える。
「いや、助かったよ。じゃ、『打たず』によろしくって言っといて。じゃ、これから用事があるから」

 そう言って、忠義の背中をズイズイ押して部室から追い出す。
「おい、ちょっと待てって。『打たず』って囲碁部だよな?」
 返事はなく、部長が紙に足を取られて転んだ音が返ってきた。
作品名:詰めの一手・問題編 作家名:浅日一