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つやつやネムリー
つやつやネムリー
novelistID. 1618
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満月、そして耳もとへ届く音楽。

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夜が始まると、星たちは行儀よく天に整列します。
次に山の向こうから満月が顔を出し、天をするりするり登り始めます。
星と月とは次第にその光を増していき、
それに合わせて夜はいよいよ深まります。
満月が天の頂きに到着すると、
地上を覆い尽くしているのは透明な青い静寂。
夜がしっかりと地上の隅々に染み込んでいるかを、
満月は注意深く確認します。


ある湖のほとりに小さな影が近づくのを満月は見ます。
星空を映す水面に影が落ちます。
映ったのは、笛を口にあてた若者です。
やがて笛の先から、空中に音楽が放たれます。
初めはたどたどしく、次第に熱を帯びて。
音楽は湖の上を滑り、それから向きを変え天高く上昇して
満月の耳まで届きます。
それから音楽は地上へ戻り、森を抜け山を越えます。


音楽はその後もいくつかの山と海を越えます。
そしてある小さな町まで来ます。
町の広場を一周して教会の鐘をそっと撫で、
それから音楽は町外れの赤い屋根の家に向かったのです。
煙突を潜り、暖炉の側で眠る娘の耳もとに触れて、
そこで音楽は消えます。
それでも最後のかすかな音色によって娘は目を覚します。
娘は窓の外を見ますが、そこにあるのは静寂に包まれた夜。
満月はその光を娘の黒く塗り込められた瞳に注いでやります。
娘は、唇をかすかに動かしますが、決して声がでることはありません。
やがて娘の瞳には満月の光を吸いとった涙が
いっぱいに溢れていきます。


ある魔女の呪いによって、その娘はその声を奪われ、
さらには記憶さえも奪われているのです。
そして若者は魔女の呪いを解く方法を探すために、
山を越え海を越え、いつ終わるとも知れない
困難で長い旅を続けているのです。

【2005.11.15】