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南の島の星降りて

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豪徳寺のマンション


時計は12時半をまわっていた。
小さなマンションはさすがに静かで、麗華さんの声だけがやたら、響いていた。
「何階なの?」
先にエレベーターに乗りこんだ麗華さんが聞いてきた。
「5階ですよ」
「ここ、家賃高いんじゃない?」
なんか、さっきまでタクシーの中で寝ていたとは思えない麗華さんだった。
「話すると長いですけど、ここはおじさんのマンションで、めっちゃ安い値段で借りてるんですよ。兄貴の部屋もそのおじさんのマンションで・・」
話の途中でエレベーターは5階についていた。
先にでて部屋のある右側に折れた。
「こっちですから・・」
麗華さんは黙ってついてくるようだった。

マンションの外廊下を左に折れて部屋のほうを見た。
俺も麗華さんも、すごくびっくりした。
人影が見えた。
「あーよかった。劉ー帰って来ないのかと思った。あー麗華さんも・・・」
ほんとうにびっくりした、夏樹がひとりで立っていた。
「わーびっくりした、夏樹じゃないのよーなにやってるのよー劉ちゃん待ってたの・・ここで」
静かなマンションに大きな声が響いていた。
「麗華さんこそ、なんで劉なんかといるんですかー」
夏樹も大きな声だった。
「あのう、どうでもいいけど、ちょっと声がなんで・・部屋に入ってくれませんか・・」
言いながらあわてて、鍵をまわして二人を部屋に押し込んだ。
中に押し込んでも大きな声の二人だった。
とりあえず二人を座らせた。冷蔵庫から麦茶を出した。
「劉ちゃんさービールとかないのー?」
麗華さんだった。
「そうよーないのー」
夏樹だった。
夏樹もなんだか酔っているようだった。聞いたらさっきまで彼女も、下北沢にいたらしかった。
「あー、よく考えたら私、おじゃまなんだー 劉ちゃん帰って欲しいって思ってるでしょ?私?」
夏樹は相当ご機嫌らしかった。
「やだー私が邪魔なんじゃない?帰ろうかー劉ー」
麗華さんだった。
冷蔵庫からビールを出している俺に二人ともうれしそうに言っていた。
「あのうー俺が邪魔なんじゃない?どっちかというと・・」
言いながら俺はすごーくほっとしていた。
二人は大笑いしていた。
ちょっと二人から離れて座ってビールを飲むことにした。
「麗華さん、劉と付き合うんですかー知らなかったー」
マジで聞いている夏樹の横顔はおかしかった。
「劉ちゃんは好きよーでも、夏樹なら譲ってあげるわよ。好きなんでしょ?劉のこと・・あんた・・だから待ってたんでしょ?今夜も?」
ビールを飲みながら麗華さんもうれしそうだった。
「麗華さんだから言いますけど昨日一晩一緒にいたんですよ。劉と・・手ださないんですよーこいつ。ひどいでしょーなんか彼女が大好きみたいですよ。変ですよねー」
途中で俺のことを指差してまくし立てていた。
「あらー私だって、さっき、下北座の店で、ここに泊めてよって言ったら、送ってきますよ・・なんて言うのよ・・こいつ」
麗華さんには こいつ 呼ばわりだった。
「さっき、店でキスしたのに・・それはないわよねー」
「えー。キスしたんですか?劉と・・・キスもしなかったですよ・・昨日 こいつ・・・」
夏樹まで こいつ だった。
麗華さんはソファーの前ですごく笑いころげていた。
俺はずっと黙って聞いていた。
「あのーもう、ビールないんですけど、買ってきますか?ギリギリだけど酒屋あいてるはずなんで・・」
ビールもなかったけど、ちょっとだけでもここから逃げたかった。
「あ、いっぱい買ってきて。なんかお菓子もね」
麗華さんの声を聞きながら俺はもう、靴をはいていた。
「早くねー」
夏樹の大きな声だった。
角の酒屋ならギリギリで開いている時間だった。
夜中なのに蒸し暑かった。
店の閉まる時間にギリギリだったので、店までは走っていったけど、帰りはゆっくりゆっくり歩いた。
途中で、なんだか笑いながら、ゆっくり、ゆっくり手にいっぱいのビールとお菓子を抱えて歩いていた。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生