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すみれいろ
すみれいろ
novelistID. 11322
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黒い光と白い影

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新しい季節
桜の風の中、私はお気に入りの音楽をただ思考の片隅で聴きながら、今から始まる時間に思いを馳せていた。
 どんなクラスメートが居るんだろうなぁ…
 先生どんな人だろうなぁ…
そんな事を考えているせいか、まるで通り過ぎた白い季節の名残のように敷き詰められた淡い花びらを踏む私の足取りは遅い。
 今春私は中学を卒業して、高校に上がる事になった。
それは決して自分で決めた道ではなかったけど、私は特に嫌とは思っていなかった。
 町の中央にある大きな駅は見慣れた場所。多くの人が集まるこの場所はいつでも人が川のように流れている。私は通勤や、私と同じように登校する人達に混じって、改札をくぐると、あまり乗りなれない電車に乗り込む。
車内は思ったほど人は居なくて、私は簡単に空席を見つける事が出来た。
少し見渡せば、どこかの会社員に混じって、私と同じ制服の生徒がまばらに乗っていた。
 そっかぁ…この人たちも私とおなじ学校なのかぁ…
相変わらず、イヤホンから流れるノリの良いビートをまともに聞く事もなく、そんな事を考えていた私は、ふと、少し離れた隣で本を読んでいる私と同じ制服を着た女生徒に気が付いた。
その女生徒は、どこか神々しいような、近寄りにくい雰囲気をまとっていた。
白くて綺麗な長い髪を後ろで一か所結っているシンプルな髪型だ。
 彼女を見て私は、ビートに戻しかけた意識がすぅっと遠くなるのを感じた。
 本なんて読んでるってことは遠くから来たのかなぁ… なんか綺麗な人だなぁ… 何読んでるんだろうなぁ…
春の朝の暖かく明るい日差しに包まれながら、私は彼女に思考を奪われていった。
彼女の綺麗な長い髪がその光を反射して、彼女自身をさらに神々しく見せていた。

それから、2,3の駅を通過して、車内アナウンスが流れるまで私はすっかり時間の事を忘れていた。
『次の駅は、西扇田、西扇田。降車口は進行方向より向って左側となります-…』
車内にいる私と同じ制服を着た生徒はそわそわと動き始めていた。
本を読んでいた女生徒も、本を閉じると席を立っていた。
私も、はっとして慌てて席を立つと降車の準備をした。


第一章:桜の空に目覚める

 あれから降車した私はさっそく人ごみの中に彼女を見失って、少し残念に思いながら、敷き詰められた淡い色の花びらの絨毯を踏んで、歩いて行く。
温かい
日差し、心地良い風…全てが私達がここに来る事を歓迎しているように思えた。
毎日がこんな日ならと思うほどに心地のいいもので、意識をしなくても自然と気分が良くなってしまいそうだ。
 イヤホンから流れるビートに合わせるように歩む私は、周りの生徒と比べると少し速い事に気が付いた。いつもの私なら逆に周りに抜かされていく。
少しずつ生徒達を抜かしていくと、私は見覚えのある後ろ姿をその生徒達の中に見つけた。
少し癖のある桜色の長い髪、すらりと高い身長。それは中学の時からの友達だった。
それを見て、話を掛けようとも思ったが、それよりも中学の時のように悪戯をしてやろうと、私はイヤホンを取って、かかとを上げて出来るだけ音を抑えながら早足で近付くと、
「わぁっ」
背後から奇襲攻撃をした。
「うわぁぁっ」
何を考えていたのか、彼女は想像以上に驚いて大きな声をあげる。
誰もが静かなこの場所ではすごく目立ったようで、周りの視線が痛かった。
「おはよー 久しぶりだね! 相変わらず瑠花(るか)は無警戒だなぁ」
私はその空気を振り払うべく、彼女の隣に並んで、彼女が状況を理解しないうちに話を進める。
彼女の名前は、春川 瑠花(はるかわ るか)
中学の頃からの友達で、以前もよくこうやって奇襲攻撃をして反応を楽しんでいた。
もっとも、やられる方はたまったものでは無いだろうが、何があっても怒らない彼女の器は感心を通り越してあきれるほどのものだった。
「みくちゃんかぁ…びっくりした まさかこんな日まで来るとは思わなかったよぉ」
と、瑠花はいつもの優しい花のような笑顔を見せる。
「だってぇ 瑠花を見るとやりたくなるんだもん」
私は以前もそうしていたように悪戯っぽく笑って、少し腰をかがめて下から瑠花の顔を覗き込む。
その時、はっと視線を瑠花越しの道路側に移したとき、胸を打つように強い何かを感じた。
デジャヴ にも近いような…
 私は嫌な予感がして、その場を呆然と見詰めながら歩みを止める。瑠花もそれに気がついて、どうしたの?と、歩みを止める。
私の視線の先には何事もなく、日差しにいつもより白いアスファルトの車道があるだけ。でも、私は何故かそこから視線を外す事が出来なくなっていた。
 気が付くと、瑠花が私の名前を呼んでいた。
「みくちゃん?どうしたの?何か答えて」
「んぇ?あ、えぇっ!?なに?」
私は、まるで金縛りから覚めたように意識の自由を取り戻すと、上ずった返事を返す。
「ねぇ、どうしたの?」
瑠花は心配そうな表情で私の顔を覗き込む。
 なんかあそこ見たら胸騒ぎが…
-とも言えず、私はなんでもないと誤魔化してまた歩き出した…
 校門を越え、新入生や在校生達で賑わう校内に入る頃にはそんな不安も忘れて、瑠花と私が同じクラスになった事を話しながら教室へと向かう。
作品名:黒い光と白い影 作家名:すみれいろ