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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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綿津見國奇譚

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   二、勇者の印

 二人の赤ん坊をじっと見ていたクサナギは、ふとその手の中に光る物をみつけ、明かりを近づけてみた。
「お父さん、見て!」
「こ、これは」
 ヒムカの手の中には紅玉(ルビー)、サクヤの手の中には青玉(サファイヤ)があった。
「クサナギ、この皇子たちはこの国の救いになる!」
「え?」
「歴史で教わっただろう。千年前、このワダツミ国が統一されたときのこと」
「七色の石を持った七人の勇者のこと?」
「ああ、国の一大事には必ずその聖霊石をもつものが生まれるんだ。いままで二度あった。千年前の統一の時とはるか昔……」
「それって、おとぎ話じゃなかったの?」
「ばか。いったい何を聞いてたんだ」
「だって、歴史は苦手なんだ」
「まったく……。おまえは、賢者になるつもりだろう? そんなことじゃ方技官にすらなれないぞ」
 方技官というのは、ホデリ族が司る宮廷の官職である。普通のホデリ族の子供は、その修練所で研鑽をつみ、それぞれの特技を生かした官位につく。
「う…… たしか、赤・青・緑・黄・白……朱に紫だっけ? 勇者の印って」
「そうだ。それは日と月の力と、木、火、土、金、水の地上のあらゆる力とが人に現れる。それが勇者だ。この皇子たちはまぎれもなく勇者になる定めなのだ。これでスセリ媛が懐妊されたわけがわかった。まさしく天の意志だったのだ!」
「天の意志?」
「ああ、おまえは子供だから言わなかったが、媛は結婚もされないのに身ごもったのだ」
「あ、それで御上が媛さまを離宮に閉じこめてしまわれたんだ。あのときは宮廷中が大騒ぎだったよね。でももう三年前じゃないか。なんで今頃赤ちゃんが」
 不思議なことに、スセリ媛はそろそろ産み月かと思われる頃になっても、ほっそりした体つきのままで少しも出産の気配はみられなかった。そこで王も娘を許し、幽閉を解いたのだった。
 ふと、クサナギは思い起こした。
「もしかしたらあの日のこと? 急に日食が起こった……」
「そう、そのときちょうど媛は侍女たちと水遊びをしておられた」
「帳の外でぼくも警護してたから知ってるよ。侍女だって二十人もいてまわりを囲んでいたし……」
 三年前の夏、媛が湖で遊んでいたときに起こった突然の日食は、そのときの太陽と月の位置から考えると絶対あり得ないはずで、天文学も学んでいたクサナギにも、不可解な出来事だった。
「媛は、天から何かが体に入ったと言っておられたが、御上はあまりに動揺されて媛の言い分を聞き入れられなかった……。そして御上がみまかり、宰相のカガシラ殿までが……」
 ムラクモは声を詰まらせた。
 わずか三年で、この国はなんと変わってしまったことか。スセリ媛の懐妊騒ぎから、王の病と死で国民の心が揺らぎ、宰相カガシラ(輝白)の尽力でやっと持ち直しはじめた矢先、そのカガシラが暗殺されてしまった。
 しかも、同じ王位継承権を持つもう一つの部族ハヤト(隼人)の長ハマクグ(濱久具)が、隣国フサヤガ(房矢蛾)の王ホウジャク(鵬雀)と謀って、クシナダ族を亡き者にしようと攻めてきたのだ。
「クサナギ」
と、ムラクモは向き直った。
「今度のことは、大神官すら予測できなかった戦だ。きっと陰でホオリ(火遠)族が暗躍しているに違いない。わたしたちは、心してかからねばならんぞ」
「はい、お父さん。でも、そのホオリ族っていうのは?」
 クサナギにとって、初めて聞く部族の名だった。
 長い間、平和を教授してきたホデリ族と他の人間の部族にとって、忘れられていた存在だった。クサナギが知らぬのも無理はない。はるか昔、ホデリ族から分かれたそのホオリ族との戦いはもう久しくなかったのだ。
 ムラクモは、今がその時と、クサナギに語って聞かせようとした。
 ところがその時、一瞬の隙をついて、さあっと黒い霧のようなものが、ムラクモとクサナギの目の前をよぎったかと思うと、皇子たちとスセリ媛の亡骸を包み込んだ。
 ただならぬ恐怖を感じたのか、生まれたばかりの皇子たちは、たちまち火のついたように泣きだした。
「しまった!」
「ばかもの! 気を緩めたな!」
 ムラクモはすぐさま太刀を抜くと、その霧に斬りつけた。
「ぎゃ」
 斬りつけられた霧は二つに分かれ、一つは人型になって悲鳴をあげると、ヒムカを離した。クサナギはあわてて駆け寄り、ヒムカを取り返した。倒れた人型の霧は、動かなくなったかと思うと、しゅーしゅーと音を立てて蒸発してしまったのだ。
 しかし、もう一つの霧はスセリ媛の亡骸とサクヤを包み込んだまま、かき消えてしまった。
 初めて見た光景に、クサナギはすっかり気が動転して、ただ呆然とするばかりだった。クサナギのほおに父の平手打ちがとんだ。
「なんということをしたのだ。クサナギ!」
「はっ」
 ほおの痛みでクサナギは我に返った。
「まったく、なんのために訓練をしてきたんだ! 肝心なときに役に立たない木偶の坊では、ホデリ族の名が泣くぞ!」
「ごめんなさい。あんなもの初めて見て……」
「いいわけはするな。何が起ろうと、平常心を保てといっただろう」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
 ヒムカの泣き声に、まるで責められているようで、いたたまれなくなったクサナギは、洞窟を飛び出そうとした。
「サクヤ媛を連れ戻してきます!」
 しかし、ムラクモは彼の腕をつかんでひき止めた。
「ムダだ。奴らは、滅多なことでは姿をみせんのだ」
「でも、さがさなきゃ。媛が殺される。それにスセリ媛のご遺体も……。ぼくのせいです!」
 興奮するクサナギを、ムラクモは押さえつけて言った。
「平常心だといっただろう。落ちついて考えろ! サクヤは勇者だ。ホオリ族は決して殺すまい」
「でも!」
「いいか、国の危機を救うのは七つの聖霊石を持つ勇者だ。あの石だけでも、勇者だけでもない。両方が揃って価値があるのだ!」
「は、はい」
「むしろ奴らはヒムカをまた狙ってくる。それに、ほかに石を持って生まれた子供を捜し出してさらうだろう。嵐がやんだら、わたしたちも行動開始だ」
 クサナギは、ようやく落ち着きをとりもどし、大きくうなずいた。
「お父さん、ホオリ族って、みんなあんな姿なの?」
「いや。そうだな、さっきお前に話しておこうと思っていたんだったな。その前に…」
 ムラクモは、泣き疲れてすっかり寝入ったヒムカを、ヒモのついた皮の袋にいれると、クサナギの肩にかけさせた。
 それから、自分の短刀とクサナギの短刀を、切っ先を入り口の方に向けて交差させて、地面に置いた。そしていつも肌身離さず身につけていた水晶を出し、ふっと息を吹きかけると、それを刃の上において言った。
「いつ奴らがくるかもしれないからな。少しの間ならこれが結界をつくってくれる。気休めみたいなものだが。太刀は離すんじゃないぞ」
「はい、お父さん。今度は失敗しません」
 たき火をはさんで親子は向かい合った。

作品名:綿津見國奇譚 作家名:せき あゆみ