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こんにちは、エミィです

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目配せのガールズトーク #3


3.

「オオマツ――」

 反射的にその名を呼び、私は駆け出していました。
 手拍子が止まって、人々は驚いたように私を見ます。通して! ――そう叫んでも、伝わりません。やっと人混みを抜けて、わずかに見える小さな背中を追います。

 学校を出て、道路を走って、交差点を曲がり――

 私はあっと言う間に、彼女を見失ってしまいました。

「はあ、はあ、はあ――」

 胸が苦しい。
 胸元の服を掻き掴んで、息をゆっくりと吐いて、近くの座れるところに座ります。
 こちらは至る所に座るところがあって、大変便利です。

 手にはカバンを握っていました。無意識のうちに、持ってきてしまったようです。元は私の物ですが、盗んで来たことになるでしょう。けれどもどんな順路で来たか覚えてないので、もう戻れるとは思えません。

 アキさんに、挨拶もしていないのに……。
 何も考えていませんでした。

 大体、大松さんを追いかけても、仕方がないではありませんか。
 私は服などを返して欲しいわけではないのです。彼女を捕まえたとしても、後味の悪い思いをするだけでしょう。
 お話したくとも、言葉は分かりません。何かの手段で意思疎通が出来たとしても、そこで得られるものはないように思えます。もし謝罪の言葉を口にするのなら、彼女は逃げたりしなかったでしょうから。

 カンカンにも、もう会えないのではないかしら。
 私はふと、そんなことを考えました。
 もう半日以上、音沙汰がありません。私に愛想を尽かしてしまったのかもしれません。それはそれで、仕方のないことのように思えました。だって、こんなにも情けなくて、生活力がないのに……。

 エー介殿のような、理解のある方と巡り会えていれば良いのですが。

 なんだか可笑しくて、口角が上がるのを自覚します。
 なのに同時に涙がこみ上げてきて、私は唇を噛んでそれを堪えなければなりませんでした。
 こんな道の真ん中で泣くなど、そんなはしたない真似が出来るはずがありません。道行く人がこちらを見ています。
 ずっと笑っていなくちゃならないのに。
 カンカンとエー介殿が幸せそうにしている様子を想像して、もう一度笑おうと試みます。けれどもそれはとても和やかなのに、やっぱり涙を誘うのです。

(帰ってしまおうかしら――)

 涙が一滴、落ちました。
 もう、それで終わり。涙は終わりにしなければ。

 瞬きを繰り返して、ふっと息を吐きます。
 胸元を掴んでいた手を離すと、未逆さまに頂いたネックレスがそこにありました。
 真っ黒な大きな目を思い出します。

 ――私はずっとここにいます――

 そうだ、もうどうしようも無くなったとき、未逆さまを頼ればいいんだわ。再びネックレスを握り込みました。いっくんとお揃いのネックレス。彼もきっと、私を助けてくれる。

 でもその前に、自分で何とかしてみましょう。

 私はカバンの中に仕舞おうと、ネックレスを外しました。
 一種の意思表示、でしょうか。
 一人でがんばってみようという意思表示。

 カバンを開けて、中のポケットに仕舞って。
 そこで始めて、私はカバンがからっぽでないことに気付きました。どうやら大松さんは、衣類と数点の小物だけを抜いたようです。飴は、残念ながら見つかりません。あとは鏡や、ハンカチも無くなっていました。

 残っているのは、お茶の葉と、薄い本。
 中でもひと際目を引いたのは、紙の束でした。

 エー介殿が届けてくれた、ファンレターです。

 開いてみると、知らない読めない文字で、沢山の言葉が並んでいました。エミィ――と、それだけはなんとか読めます。一応、自分の名前をどう書くのかは、勉強していましたから。

 何と書いてあるか分かりませんが、見知らぬ方が、私の歌を聞いて、こんなに沢山のメッセージを届けてくれた。
 その事実に、私はまた、違う涙がこぼれそうでした。

 その中に、不思議なものを見つけました。
 封かんが、私の家の紋章だったのです。
 びっくりして、取り落としそうになりました。開く手が震えて、けれどもすぐに中を確認します。

 中には一枚の便箋。
 地図でしょうか、迷路のような絵が描かれています。文字は一切ありません。目印となるようなマークが、いくつかありました。中には私の家の紋章も。きっと、ここが目的地なのでしょう。

 私は立ち上がりました。
 ここで何が待っているのか、不安がないわけではありません。けれど、行けば、何かあるでしょう。それが何であれ、もう怖くなどありません。

 どうしてかしら?
 不思議なもので、自分一人でなんとかしようと決心した途端、強くなれたような気がしたのです。

 信じられる未来が無くとも、頼れる人は必ずいる。
 そのことに、気付いたからかもしれません。


作品名:こんにちは、エミィです 作家名:damo