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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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ACT,4





「おやおや、おかえりなさい柚真人君」 帰宅した柚真人を出迎えたのは、優麻であった。しかも彼は、にこにこと、本当に珍しいことにそれとわかるほどに楽しそうだ。従って柚真人はいささか不吉な予感を抱いた。
 この青年は、一見虫も殺さぬおとなしげな顔をしているが、はっきり云ってそれが単なる見掛けにすぎないというのが、困ったところなのである。何時何処で、一体どんなこと、しかもほんの細やであるにもかかわらず非常に甚大な精神的衝撃を与えてくれる悪巧みを進行させているものやら、わかったものではないのだ。最近になって、柚真人もようやく、どうやらそれが彼の趣味嗜好であるらしいということに、気がついた。屈折した愛情ともいえるだろう。
 この調子で弁護士業をこなしているのかと思うと、空恐ろしい事限りない。
 ともあれ柚真人の不安に追い討ちをかけるように奇妙な匂いが廊下の向こうから漂ってくる。
「……なんだ、この匂いは」
「やだなあ。晩御飯の支度をしているんですよう。誰でも作れる市販のカレー」
 どう――考えても、そのような匂いでは  なかった。
 柚真人は黙して乱雑に、スニーカーを脱ぎ捨てる。
「……お前、もちろん今日も夕飯食って帰るんだろうなあ?」
「それは脅迫ですよ、柚真人君。人の身体・生命に危害を加える害悪の告知です」
 司は、破壊的なまでに料理が下手だ。 と、いうよりも彼女は、その涼しげで超然とした雰囲気からおよそ遠く宇宙の壁に届こうかというほどにかけ離れて不器用で、鈍くさいことこの上なく、慌て者で、粗忽なのである。
 しかも質の悪いことに精一杯一生懸命で、悪意がまったく無い。
 柚真人は軽く舌打ちした。
 司の料理が不味い理由はわかっている。
 計量をしない、味見をしない、思いつきで妙な手順を調理過程に加える、レシピを信用しない――以上の事を実行すれば、大抵料理は不味くなる。
 要するに、司の調理スタイルである。 柚真人は、青年の耳朶をつかんで自分の耳元に引き寄せた。
「いたたた」
 ――おまえっ。司には料理させるなって何度いったらわかるんだよっ!?
 ――いや、だから、司さんの細やかな嫌がらせですよ。私は単なるアシスタント。
 ――……死なすぞ。