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夢路を辿りて

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第5話 最後の絵



 光彦は千穂子との再会を機に、近くの絵画教室での出来事まで、珍しくバタバタとした日を過ごしたのだが、それもようやく落ち着いたようで、ここ数週間というもの何ごともなく、また以前のように暇な毎日を過ごしていた。

 今朝からこれまでに来たお客といえば、あの絵画教室に通っているという奥さん連中だけで、それも光彦の店を茶飲み場のようにして、暫くソファに座ってゆっくりと世間話をすると、みんなが同じパステルのセットを買って帰っていったのである。どうやらそれは、絵美子が教室の先生に、光彦の店を利用してもらうよう口添えしたらしく、あれ以来こうしたお客が、少しながらも増えていたのだったが、商売っ気のない光彦には、それが有り難いような煩わしいような、少々複雑な気持ちだった。

 これまでの慌ただしさが嘘のように、それ以降にやって来たお客もなくて、光彦はひとり、また昔を思い出すようにして、店の奥でコーヒーを前にレコードを聴きながら、徐に愛用の“GITANES”のパッケージを開け、少し太めのそのタバコを取り出しすと、壁に残された最後の1枚の絵を眺めながら、そういえば、私がこのパッケージを始めて見た時と同じように、彼女もこのパッケージを気にしていたなと、見慣れたはずのそのパッケージを何度も見返していた。

 スピーカーからは下田逸郎の柔らかな声が流れ、曲名が彼の代表曲とされる『セクシー』に変わると、光彦はまた、当時行ったコンサートのことを思い浮かべたのだが、それは直ぐに違う思いに切り替わって、こうも立続けに珍しいお客、いや、珍しい客というよりも、懐かしい人たちに出会うなどというが、現実にあるのだろうか、やはりこれは夢?もし夢なのであれば…。
 光彦がそんなことを考えていると、例の青年がいきなり店のドアを押し開けて入って来るなり、「先生、いますか!とうとうやりましたよ。」そう嬉しそうな声で叫ぶと、青年は店の奥にいた光彦の元へと駆け寄った。

作品名:夢路を辿りて 作家名:天野久遠