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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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きみの歌をききたい

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 冬の空の青さに驚いた日、少女に会った。
 雪の降る、灰色の空しか知らないぼくの話に、少女は目を丸くして、それから笑った。
「ここ、雪はめったに降らないわ。冬の空は真っ青。一年中で一番きれいよ」
 大きな瞳に澄み切った青空が映る。太平洋を一望に見下ろす岬。初めて訪れた町で、ふと立ち寄った公園でのこと。
 春から、この町の女子高の教員になるぼくと、少女との出会いだった。

 四月。校庭であの少女を見かけた。桜の花吹雪の中で、ひとり空を見上げていた。
 真新しい、紺色の制服に身を包んだ少女は初々しく、肩までのストレートな髪が、日の光を受けて金色に縁どられている。
「残念だわ。私のクラスの国語、先生の担当じゃないんだもの」
 振り返った少女は、少しまゆを寄せた。
 ぼくは岬の公園が気に入って、天気のいい日曜日には、午前のひとときを過ごすようになっていた。アパートから歩いて五分。目印は大きな病院の白い建物。その角を曲がると、岬の入り口だった。
「何考えてるの?」
 少女の顔が目の前にあった。芝生に寝ころんだ、ぼくをのぞき込んで。
「ん。ちょっとね」
「もしかして、恋人のこととか……」
「そんなの、いないよ」
「うっそー」
「いないったら。それより、今日も歌の練習にきたの?」
「だれかがいるときは歌わないの。別に、人に聞かせたいわけじゃないから」
 初めてであったとき、少女は歌を歌っていた。あのときも、ぼくの気配でやめてしまったっけ。
「先生もここが好き?」
「うん。ぼくは海なし県の出身だからね」
 そればかりじゃない。ぼくは、まったくちがう場所に逃げたかったのだ。冷たい雪と暗い空。ぼくにとってふるさとは、まるで人生の重みが、のしかかってくるような場所でしかなかった。志した文学を反対され、家を飛び出した。

 公園に人がいないとき、少女は歌を歌う。
 少女の歌は、心の隙間を埋めてくれるような、包み込むようなやさしさとあたたかさがあった。
 離れたかったふるさと。自分が捨てたはずなのに、なぜか置き去りにされたような思いがした。
 うまくいかない創作活動。生活のために選んだ教職。焦燥感にかられ、どこか満たされない日々を送っていた。