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パロ詰め合わせ1

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2.陰陽師パロ-1-



 
 ちりり、と鈴の音が聞こえた気がして菊は書簡から顔をあげた。
 もう休むので寝殿にはだれも近づかないように侍女たちには頼んでいるので、屋敷にいる人ではないはずだ。
 性懲りもなく、陰陽師の屋敷にまた物の怪でも入り込んだのか。懐に隠している札に右手をかけたところで、几帳にだれかの手がかかった。
「菊、いま大丈夫か?」
 几帳の向こうから聞こえてきた声に、菊は人知れず詰めていた息をはいた。そして懐に入れていた右手を引き、身体を声のした方角へと向けて居住まいを正してから扇を手に取る。
「大丈夫ですよ、お入りください」
 菊の許しを得てからきっちり三秒ほどの間をおいてから、その人物が寝殿の中に入ってくる。
 燈台の薄ぼんやりとした光が、その人物のことを照らす。まるで月のような金色の髪がさらりと揺れ、夏のころの木々の葉を思い出させる碧色の瞳がゆるりと光を放つ。
「おかえりなさい、アーサーさん。お疲れ様です」
「あ、ああ。うん。……た、ただいま」
 いまだに菊と話すことが慣れないのか、アーサーは気恥ずかしそうに頬を染めた。けれど嫌な気分ではないようで、尻に生えている九本の狐のしっぽがぱたぱたと揺れている。
 まるで犬か猫の仔のようだと微笑ましい気持ちになりながら手で座るようにと促すと、アーサーはちらちらと視線でこちらをうかがいながらその場に腰を下ろした。そのときに乱れる裾が気になるのか、しきりに垂れるくくり緒を気にしている。
「アーサーさん、その狩衣とてもお似合いですよ」
「えっ、あ、その、うん。あ、ありがとう」
 頬から耳まで真っ赤に染めて、アーサーはひどく慌てたようすで腕を上下に振る。そして絞り出すようにありがとうの言葉をくちにして、うつむいてしまった。
 アーサーの好意はとてもひたむきだ。それは菊をとても温かい気持ちにしてくれる。だからその思いを隠さずに音に乗せ、アーサーの名前を呼んだ。
 名を呼ばれたアーサーはゆっくりと顔をあげ、そしてまっすぐに菊を見る。燈台の光をはらむ碧色に輝く瞳はとても幻想的で、どこか蛍の光を思い出させた。
 菊から見ると美しいとしか言えない碧の瞳は、アーサーたち九尾にとっては忌まわしい色であるらしい。
 そもそも、九尾たちは己の自尊心が高く、菊のような陰陽師に使役されない。彼らは自らのちからで生き、そもそも人の住んでいるところまで出てくること自体があまりないのだ。
 物の怪とは思えない美しい容姿と人間離れした高い知能指数。そして物の怪の中でもけた外れの魔力を持った彼らは、自分たちの種族にしか心を開かないと言われている。
 しかしアーサーは違った。九尾の中でも忌み嫌われる碧の瞳のせいで兄弟たちから疎まれ、群れから外れて生きていたのだ。そのせいか山の方には住めず、京の都の神社の奥、人のあまりこない山の中で暮らしていたらしい。
 それがどういうわけか、アーサーはぼろぼろに汚れた姿で屋敷の傍に倒れていたのが一年ほど前のことだ。
 自分のことをあまり語らないアーサーなので詳しい理由はいまでもわからないが、あちこちに弓に刺された痕やすり傷を作って倒れていたアーサーを助け、この屋敷で傷が癒えるまで世話をした。とくに見返りを期待したわけでもなく、ただ傷ついている彼を放っておけなかったのだ。
 ところが律儀なアーサーはその恩を返したいと、菊の式神と働きたいと申し出てくれたのだ。
 九尾の狐など、普通の陰陽師では使役できる物の怪ではない。能力も高く、恐ろしいほど知識もある。またとない機会に、菊はアーサーの尊厳を失わないていどの契約を交わしてもらった。
 そうして一年。アーサーはとてもよく働いてくれる。今日もこのあたり一帯に悪しき怨霊が巣食っていないか見回りに行ってもらったのだ。
「き、菊がくれたものだから、すごく、嬉しい。その、褒めて、もらえて」
 もじもじと布を手もみしながらも恥ずかしそうにそう言う。ぼろぼろで着る物もなかったアーサーに服を与えた菊にとっては、その姿だけで十分なお礼だ。
 相変わらず可愛らしい人だなあ、と心の中だけでこっそりと呟きつつ、扇に隠した唇でこほんと息を吐いた。そして視線をすいと、アーサーの後方に向ける。
「それで、あなたはいつからアーサーさんの後ろについていらっしゃったんですか?」
「えっ」
「なあんだ、さすが陰陽師だね! 菊にはどうしてもわかっちゃうのかっ」
 そう言って悪びれもないようすで寝殿に入ってきたのは、アーサーよりも明るく、太陽のような金色の髪と夏の青空を思わせる瞳の色をした青年だった。
「あ、アルフレッド?」
「やあ、アーサー。久しぶりだね!」
 アルフレッド、とアーサーが呼ぶこの人物は、物の怪のひとりだ。
 本人の言葉を信用するならば、神社の狛犬の化身であるらしい。だから頭には金色の三角の耳とおなじく金色の犬のしっぽが尻についている。そして良く似た双子の兄がいるらしいが、菊はまだその人物に会ったことはない。
「な、なんでおまえが菊の屋敷に来るんだよ! 帰れよ!」
「いいじゃないかっ。それに、きみに帰れって言われる筋合いはないぞ! ここは菊の屋敷なんだから主人は菊で、きみは使役されてる式神なんだろう。なら、菊が帰れって言わないかぎり帰らないんだからな!」
 むう、と頬を膨らませたアーサーがこちらを見たが、苦笑いでごまかした。
 ずっと昔に一度、アーサーのこの表情に騙されてほんとうにアルフレッドに「今日のところは」と帰ってもらったことがあるのだが、そのときはアーサーが延々と落ち込んでひどい目にあったのだ。
 アルフレッドに関しては、彼は素直ではない。表情や言葉と心情はまったく正反対であることをそのとき学んだ。だから追い出すことはせず、アルフレッドに座るように促す。
 彼は待ってましたとばかりにしっぽを振ってその場に腰をおろし、近くにあった餅菓子を嬉しそうに食べ始める。
 横で「行儀が悪い」と怒るアーサーも、アルフレッドを見る瞳はどこか嬉しそうだ。
「アルフレッドさん、足りないようでしたら持ってくるように頼みますが」
「ううん、大丈夫だぞ」
「き、菊っ! ほんとにごめんなっ」
 まるで親か兄のように謝るアーサーに、菊は微笑んで見せた。それでホッとしたのか、アーサーも嬉しそうに表情を緩める。それを刺すような視線で見ているアルフレッドには気付きもしないところが、この九尾の良いところでもあり悪いところでもあるのだろう。
 このふたりの関係は菊にとっては謎が多い。アーサーの話では、自身の意思を持ったばかりのアルフレッド兄弟をアーサーが見つけ、しばらくは世話をしていたらしい。けれど何年か前に、ふたりそろって独り立ちをすると出て行ってしまったと聞いた。
 それからずっと会っていなかったらしい彼に再会したのは、アーサーが菊の式神になってしばらく経ったころだった。
 深夜、人が寝静まった時間に屋敷に忍び込み、寝ていた菊をたたき起して「決闘しろ!」と叫んだのがアルフレッドだったのだ。
 いろいろとあって誤解も解け、いまではすっかり菊にも懐いてくれてこうして屋敷に通ってくる狛犬。けれど彼はきっと、アーサーに会いにきているのだろうと菊は気付いている。
作品名:パロ詰め合わせ1 作家名:ことは