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紙の魚

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1.
さわさわと、風が鳴る。
ゆるやかな上り坂の山道は、左右に涼やかな垣となっている竹林から落ちた笹の葉が降り積もり、一歩踏みしめるたびに、わずかに沈む。風はわたしの背後から追い抜いてゆくから、竹林の葉がみな道の先を向いてなびき、きぬずれに似た音をたてている。
ふと、竹の花は百年に一度咲く、と誰かに聞いたのを思い出した。
竹がめでたきものとして、正月の玄関などに飾られるのは、冬になっても緑を失うことなく、とこしえに枯れないように思われるからだ。竹の葉は確かに、冬になっても枯れることはないが、竹の命もまた永遠ではなく、その長い寿命の最後に、生涯たった一度の花を咲かせるのだという。だから、その花の咲くことは、逆に、不吉の兆しと考える地方もある。
わたしは、竹に囲まれた山あいの道を急ぎながら、次に着く村は、どんな場所だろう、と考えていた。
大政奉還の騒ぎもすでに首都ではひと段落を終え、ちらほらと洋装も見られるようになった近頃でも、このような山村の部落では、まだ旧い時代の風習や服装や言葉が生き残っていて、わたしはそれらをたどる旅をしている。ときには、学問の徒と名乗ることもあるが、それはただ、利便のため使う名前であって、わたしの旅の目的は、べつにあった。その目的のせいか、旅のさきざきで、さまざまなものを見てきたし、しかし、1年を経ても、わたしはまだ目的のものを見つけてはいなかった。
 夜半に降った雨の露を含んだ道が、少し下り気味になり、少しずつ道幅が広くなったことに気付き、わたしは足を速めた。前の村を出てから、ゆうべの野宿を経て歩いてきたが、次の村に近づいてきたようだ。竹林の壁が少しずつ広がってまばらになり、あいまに小さな畑も点在しはじめたころ、ようやく、わたしは、山あいに開けた、小さな村の入り口へとたどり着いた。村の入り口には、竹をくんでできた門があり、夜には狼や山賊から村を守る役目をはたしているのだろう。小さいながら、名主や小地主に治められた村かもしれない。人々の話を集めるために、村の中をある程度自由に歩き回るには、その人物の家を訪ねるべきだろうか、と考えながら、わたしは、竹で作られた門をくぐった。
作品名:紙の魚 作家名:十 夜