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Shina(科水でした)
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【パラレル】Patisserie Shizzu

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ルール説明:多分新人研修 2010.08.04up




「あれぇ、杏里じゃん!」
「園原さん?」
「紀田くん、竜ヶ峰くん…?」

新しいバイトがそろって顔を会わせたら、全員顔見知りだった。
すげぇ偶然だなとトムは笑い、世間ってのは狭いもんっすね、と静雄がしみじみと呟いた。

「まあいいや、これから説明すっから適当に座ってくれ」

トムが促して、三人固まって席に着く。
仲良いなーと、トムが言えば、でしょうと正臣が答えた。

「そんじゃ、簡単に自己紹介と仕事の説明な。
 こっちの美人が平和島静雄。この店の店長兼パティシエな。
 んで、俺は田中トム。オーナーってことになってるけどまあ、単なるバリスタだ。
 えっと、3人は顔見知りなんだよな?」

トムの問いかけに答えたのは、やはり正臣だった。
正臣と帝人は幼馴染で、帝人と杏里が高校のクラスメイト。
帝人を通じて、正臣と杏里を仲良くなり普段から3人で行動することが多いという。
へぇと、興味あるのかないのか分からない、薄い反応を静雄は返した。
なんと言うか、感情の平坦な人だなぁと帝人は思う。
初めて店に入った時も、無愛想でビビってしまったのを思い出す。
そういえば正臣は、静雄のことを怒らすととても怖いと言っていた。
普段静かな人ほど怒らせると恐ろしいというやつだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、トムからプリントを一枚渡された。
どうやらレジュメのようだ。
簡単に、業務内容とそのやり方が書かれている。
説明のために口を開いたのは静雄の方だった。

「おまえらにやってもらいたいのは、喫茶スペースの接客だ。
 先に言っとくけど、俺はあんまり気が長ぇ方じゃねぇから接客はできねぇ。
 やり方とかはおまえらのやりいいようにやってくれてかまわねぇ。
 基本的なことは渡した紙に書いてあっから目ぇ通してなんか質問あったら言って。答えるから」

大雑把だなぁと、帝人は思う。
無愛想で大雑把。
それなのに、作るケーキは繊細だ。
面接の折、お土産にと持たせてくれたフルーツタルトは絶品だった。
バターがたっぷりでさっくりしたタルト生地を思い出しながら紙に眼を通していると、ふと気なる項目に行き当たった。
項目としては、飲食店であるからきっとおかしなことはない。
しかし、書かれていることがどうにも腑に落ちないのだ。

「むしに、ついて?」

思わず声に出すと、隣に座っていた杏里も気になったのか首をかしげている。
飲食店だし、どんなに衛生面に気を使っても出てしまうかもしれない。
それにしたって、これはちょっとおかしくないか。


================================


ノミ蟲について
・対応しなくて良し。
・そもそも店に入れない。
・来たら追い出すこと。
・静雄に対応は絶対させないこと。
・しつこい場合は実力行使も可。
・追い出した後は、塩を撒くこと。


================================


蟲というよりも、これは迷惑な客に対する対応に見える。
なんだろうと、杏里と顔を見合わせるその横で、正臣とトムがなんとも言えない顔をしていた。

「蟲がな、出るんだよ」

そんな中、ぽつ・と平坦なのに鳥肌が立つほど殺気の込められたつぶやきが零された。
ゾワ・と、心臓が悲鳴をあげるほど竦んだ。

「ウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェウゼェ…」

呪詛の如く呻き出した静雄に、心臓がビリビリと冷える。

「ま、正臣…!」

助けを求めるように、幼馴染を呼ぶがこちらもこちらでいつになく真剣な顔をしている。
この蟲と称される客はよっぽど迷惑な客らしい。

「すっごい迷惑な客なんだ。静雄さん狙いで、嫌みったらしくべちゃべちゃ喋って静雄さんを散々煽って帰ってくんだよ。死ねば良いのに」
「まえもなー静雄が切れて店の扉ごと投げ飛ばしちゃったんだよなー」
「そのまえは静雄さんショーケース投げてましたよ」
「投げ…?」
「ああ、あれは参ったな…まだ商品入ってたから」
「……すんません、トムさん」
「ああ、良いって良いって」

落ち着いたらしい静雄が心なしかしょんぼりと項垂れている。
よしよしとトムになだめるように撫でられるさまはどこか大型犬を髣髴とさせた。
とりあえず帝人はその蟲が来ると静雄が荒れるらしいということだけは理解した。
多分、それが一番重要だ。

「あの…静雄さん狙いって、女性の方なんですか?」
「うんにゃ、男」

おずおずと問われた杏里の疑問をトムが即座に否定する。
それからどんなにムカつこうが、女子供に静雄が手を出すことはないよと、続けた。

「そうそう。静雄さんはトムさんのなんだからあの人もとっととあきらめれば良いのに」
「「え?」」
「あ、もしかして二人ともそういうの偏見ある?
 ごめんなぁ…こればっかりはちっと諦めらんねぇんだ。
 もし駄目だったらやめてもいいべ」

なんでもないことみたいに正臣から漏らされた二人のカミングアウトと、それを否定しないトムの言葉。
それから、耳まで赤く染まった静雄。

非日常を求めてはいるけれど、ちょっとこの方面での非日常は考えてなかったなぁと帝人は思った。