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Shina(科水でした)
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【パラレル】Patisserie Shizzu

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参戦決定:園原杏里の場合 2010.08.01up




それは、帝人がShizzuに貼られた張り紙を見る二日前の話。

「おいちゃんさぁ、トム坊のことも平和島のあんちゃんのこともすっごいすっごい信用してるのね」
「…はぁ」

閉店後のPatisserie Shizzuには、3人の男がいた。
少ない喫茶スペースに男3人が額をつきあわせている。
一人は、この店のパティシエ・平和島静雄。
もう一人はオーナー・田中トム。
そして最後の一人は、トムの知り合いの赤林だ。
赤林には、出店の際、それなりに世話になっている。
その赤林がひどく深刻な顔で静雄とトムそれぞれを見つめていた。
普段、のらりくらりと適当に生きているような赤林のその姿に二人はただ首を傾げるばかりだ。

「どうしたんですか、赤林さん」
「いやね、杏里ちゃんが働きたいって言い出してね」
「杏里ちゃん?」
「赤林さん、娘さん居たんすか?」
「違うよぉ〜」
「ああ、若紫計画」
「うん、トム坊、黙ろうか」

にこ、と赤林は笑ったが、目がちっとも笑ってない。
横では静雄が言葉の意味が分からず首を傾げている。

「ていうかさ、若紫計画はトム坊の方だよね」
「は!?」
「中学の時分から捕まえて、自分好みに調教しちゃってさ。ねぇ?」

チラ、と静雄に視線をやりながら赤林は言う。
ちょっとした仕返しだと上がった口角が告げていた。

「調教なんざしてません」
「トムさん、若紫計画ってなんスか?」
「知らなくていいから」

はあ、と。
一度大きく溜め息を吐いて、トムは赤林に問いかけた。

「で、その杏里ちゃんが何だって言うんですか」
「そうなのよ。杏里ちゃんね、今年高校生になったんだけど。あ、杏里ちゃんっておいちゃんの知り合いのお嬢さんで色々あっておいちゃんが面倒みてる子なんだけど」
「え、赤林さん、女子高生って犯罪じゃないスか」
「ちょっと、平和島のあんちゃんまで!トム坊、どんな教育してるの」

静雄の言葉に、赤林がトムに向かってむくれた。
教育って、なんだ。
良い年したおっさんがむくれても全然、ちっともこれっぽちもかわいくないので、「普段の行いのせいじゃないんですかねぇ」と呟いて先を促す。

「杏里ちゃん、高校生になったらからバイトしたいんだって」
「させたら良いじゃないですか」
「え、やだ」
「やだって…」

子供みたいな言い草に二人は呆れた。
高校生になったから、アルバイト。
その発想は、割と普通のことだろう。
自立の一歩と認めてやれば良いではないか。

「だって、杏里ちゃんかわいいのよ。見た目、おとなしそうだしかわいいし、おいちゃん心配なのよ」
「はあ」
「でね。おいちゃん、トム坊も平和島のあんちゃんもすっごいすっごい信用してるのね」
「はあ」
「かわいいかわいい女子高生。だけど、おいちゃんの大事な娘なのね」
「はあ」
「手、出さないだろう?」
「出しませんよ。俺にはかわいいかわいい静雄が居ますし」
「ちょ、トムさんんんん」

結局、赤林の話は簡単だった。
事情があって、世話をしてきたお嬢さんが高校入学を機にバイトを始めたいと言って来た。
知らない所で働かせるのは心配だ。
じゃあ知り合いの所を紹介しようか。
いや、でもおいちゃんの知り合いの店でまもともなとこって…
ああ、トム坊んとこがあるじゃない。

「そう言う訳でさ、杏里ちゃん雇ってくんない?」
「はあ、だってさ、静雄。どうする?」
「トムさんが良いなら良いっすよ」
「そんじゃあ、決定な」

実際、人手は不足している。
バイトの正臣はよく働いてくれてるけど、彼だって今年漸く高校生だ。
あんまりシフトを組みすぎるのはちょっとかわいそうだし、もう2・3人増やそうかと考えていた所でもある。
そう考えて1週間くらいまえから店頭に張り紙も貼っている。

「じゃあ、来週の頭にでも杏里ちゃんつれてくるよ」
「わかりました」
「ほんと、手ぇ出さないでね?」
「だから、俺には静雄が居るっての」
「トムさんんん」

帰り際にもう一度念惜しをして赤林は席をたった。
因みにちゃっかり数少ない売れ残りを持ち帰るのも忘れない。
半ばからかうようにくり返された言葉に、トムは隣の静雄を抱き寄せて呆れたように返してやった。
引き寄せられた静雄はたまったものではない。
かわいそうなくらい赤くなって、わたわたしている。

「ほーんと、平和島のあんちゃんは初だねぇ」
「そ、かわいいっしょ」
「君ら、もう付き合って長いんでしょ」
「もうすぐ2年、ですかねぇ?」
「っす。」
「はは、お幸せに。じゃあ、よろしくねぇ〜」

ひらひらと手を振りながら赤林は帰って行った。
それを見送ってから、もう一度改めて店の扉を閉める。
そうして、二人は漸く息を吐いた。

「なんっか、あの人と話してると疲れるんだよなー」
「っす、おつかれさまッス」
「おー、ね、静雄慰めてー」
「慰めるって、何がスか」
「慰めるっていうか、ちょっと癒して欲しい」

言うが早いか、トムはぎゅうと静雄をを正面から抱きしめた。
静雄もされるがまま、黙って身を任せている。

「どんなこなんですかねぇ」
「まあ、静雄よりかわいいこなんてそうそういないベ」
「トムさん、それ今日言い過ぎです」
「ん、やだった?」
「…嫌っていうか。その…は、恥ずかしいっす…」
「恥ずかしいって、おまえね。もっと恥ずかしいこといっぱいしてるだろ」
「トムさん!」
「はいはい」

静雄が照れて暴れだす前に、ひとつ高い所にある頭を引き寄せた。
ちゅ・と、かわいらしい音をたてて数度口付けると、観念したように静雄は唇を僅かに明けてトムの舌を迎え入れた。
途端、深くなる口付けに静雄はくぐもった声を上げてトムにしがみつく。
どちらのものか分からなくなった唾液を数度交換して、トムは唇を開放した。

「はい、充電完了ー。ごちそうさん」
「…おそまつさんっす」

こくりと、たまった唾液を飲み干して、静雄は茶化したようなトムの言葉に返事をした。
このままなだれ込んでもいいが、明日もまた早い。
あんまり、イチャついてはおさまりがつかないのだ。

「あ、トムさん」
「ん、どした?」
「制服とか用意したほうが良いんすかね?」
「あー、そうだなぁ。じゃあ、今度選びに行くか?静雄に似合うやつにすんべ」
「着ませんよ」
「ケチ」
「ケチって…」

因みに、制服については、杏里ちゃんにはこれが似合うよね!と、赤林セレクトの制服に落ち着いたことを追記しておく。