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Shina(科水でした)
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【パラレル】Patisserie Shizzu

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参戦決定:紀田正臣の場合 2010.07.31up




青年は、平和島静雄と名乗った。
この店のパティシエで、店内に並ぶケーキはすべて彼の作品なのだという。
オーナーは、静雄の先輩でこの店では気が向いたときにバリスタをしているそうだ。

「トムさんっつうんだけどスゲーいい人」

オーナーのことを話すとき、静雄の眼がたまらなく優しくなる。
それに気付いて、帝人はこの店で働くのがなんだか少し楽しみになった。

「ね、正臣」
「んー?」
「正臣は、どういうきっかけでここで働こうと思ったの?」
「んー、ケーキがうまかったから」

店からの帰り道、帝人は正臣に尋ねるとひどく単純な答えが返って来た。

「すっげー落ち込んでた時にさ、知り合いが食わしてくれたケーキがめちゃくちゃうまくて、ちょう感動して、無理言って働かしてもらったんだよ」
「正臣でも落ち込むんだ」
「帝人ひどい!落ち込むよー人間だもの!!きれいなおねぇさん慰めて!!」
「そんなんだから信憑性が」
「ひひ、でもまあ、静雄さんのケーキがうまいのはマジだからさ。怒らすとちょうおっかねぇけど、基本良い人だから。怒らさなきゃな」
「え、なにそれ」
「まあ、帝人ならだいじょうぶだろー」

道路の縁石の上を歩きながら正臣は答えた。

初めて静雄のケーキを食べた日のことを正臣は一生忘れない。
自分の勝手で大事な人を傷つけて、耐えられなくて連いてきてくれた人たちを置いてけぼりに逃げ出した。
その時のことを思い出すと、今でも正直死にたくなる。
逃げ出したその先で、逃げ出した理由も全部知ってる人たちが食べさせてくれたのが静雄の作ったケーキだった。
なんでもないショートケーキが泣くほど美味しくて、夢中になって食べた。

「うまいか」

尋ねられた言葉に何度も頷いた。
あまくてあまくて、とても優しい味がする。

「これ作ったやつはすげぇ不器用で、規格外に強い。強い分、臆病者でな」
「あと、すっごくすっごくかわいいよ!」
「漫画のヒーロー並のポテンシャルっす!」
「まえ、ドアひっぺがされたな」

次々に落とされるケーキを作った人物の特徴に正臣は目をぱちぱちさせた。

「ド、ア…、っすか?」
「そ、俺のワゴン〜〜まあ、弁償してくれたけどよ」
「言ったろ、規格外に強いって」

ドアを引きはがす、の一言は俄には信じられなかった。
そういえば、彼らのワゴンは不自然に扉一枚新しかったような気がする。

「優しい味がするでしょう?」
「…はい」
「しずしずって手先も生き方もすっごいヘタっぴなの。でも、すっごくすっごく優しいの」
「そいつは、何回立ち止まってもすっ転んでも、自分で全部決めて、今も自分の足で立ってる。だから、紀田。おまえもこれからどうしたいか、自分で決めろ」
「「“あんたには立派な足があるんだから”!!!」」
「…それ、漫画の受け売りだろ」
「そだよー漫画には名言がいっぱいあるんだからー!」
「そっす!萌えられたうえ格言まで学べちゃうんすよ!漫画すばらしい!!」

ケーキはやっぱり優しい味がした。
それから、たくさん考えた。
考えて、考えてーーーー…
「門田さん、あのケーキ屋さん紹介してくんないっすか?」


そうして、現在に至る。
半ば押し掛けるように静雄の店に転がりこんで雇ってもらった。
ちょっと…いや、かなり短気だけど静雄はやっぱり優しかった。

「あとはなー、せっかくケーキ屋なんだから、女の子が入ってれれば完璧なんだけどな!」
「もう、正臣はそんなことばっかり」
「そうだ!杏里!杏里も誘おうぜ!!!そんで、静雄さんに言ってかわいい制服用意してもらおう。エロかわいいやつ!」
「正臣!!」

後ろから怒ったような帝人の声がする。
本気で怒りだす前に、振り返って正臣が笑うと帝人は困ったように笑った。
もともとバイトに行くのは楽しみだったのだけど、この幼馴染が来たことでもっと楽しくなりそうだと正臣は思った。