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生きてるって素ン晴らしい!

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生きてるって素ン晴らしい!


 青空の下、ヒステリックな急ブレーキとクラクションが響き渡き、お決まりの罵声が続く。
 こんなに気持ちいい初秋の光と風の中で、今も誰かが不幸に見舞われている。
 あぁと、影山忍は、胸の底からタバコの煙を吐いた。
 なんて心癒される午後だろう。ミニノートパソコンのキーボードを叩く手も弾むというものだ。アパートの窓から見下ろす町のざわめき──自動車や自転車の衝突音、いきかう救急車や消防車のサイレン、子供の泣き声、悪意に満ちた罵声──それらはいつも、冗漫な日常にメリハリをつけてくれる。
 カンカンと、スチールの階段を昇る音がする。昭和レトロ感あふれる安普請のアパートならではだろう。ところが、リズムと音程がずれた途端、ドタガラと何か転げ落ちる音と振動が響いた。
「……」
 状況の想像はついたが、影山は眉一つ動かさなかった。こういう安い不協和音も悪くない。ただ、あの階段下には今朝、いい具合に大家の鉢植えが並べてあったなと思った。まぁ人間、最悪、頭で鉢植えを割っても早々簡単に死ぬまい。
 しばらく待つこともなく、さっきよりは遅い、重い足取りの響きがある。そして、玄関のドアが開いた。
「もー、えらい目にあったぜ」
 人ひとりがやっとの小さな玄関で、背中を丸めて靴を脱ぐのは、藤宮正人だった。くしゃくしゃに乱れた髪に、盆栽の葉がいくつも絡んでいる。影山は、窓のサッシに腰掛けたまま顔を上げた。
「おかえり、乙女座最下位」
「最下位の日だけ何度も言うな!」
「まぁまぁ、テレビの星占いじゃないか、気にするな。最下位」
「念押すな!」
 藤宮は、斜めがけのカバンを下ろして冷蔵庫をあける。朝作って出た麦茶はもう底数センチしかない。
「ほんっと、今日は最下位についてないよ」
「ははは」
 吐き捨てるような溜息に、乾いた笑いとクリック音が重なる。影山はエクセルのファイルを開いて、ディスプレイいっぱいの統計グラフを見せてやった。
「お前がついてた日の方が確実に少ないから安心しろ。それが普通だ」
「嬉しくないよ、そんな統計!」
「平凡な日常をありがたがれ」
 影山の念の入った嫌がらせは珍しくない。藤宮は無視して座敷の真ん中に腰を下ろし、扇風機を自分に向けた。