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TheEndlessNights(1)

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ハッキリと教えてくれたのは彼なりの誠意なのか、弥月の後の動揺を抑える意図があったのか、それはわからなかった。
分かってる、彼が何故、強要で自分を引き込もうとしているのかを。
『選んだのは自分だがそれを望んだ事はない』
『人間を、何より自分を守る為に戦う』
大義名分を彼は弥月に与えてくれた。逃げ道だって与えてくれた。
なら、自身にこれ以上逃げる意味なんてあるのか。無い筈だ。
三笠晴樹が与えたその利害はハッキリと弥月のそれと合致する。
なら、俺は何を恐れているんだろう?
また、昨晩の事がフラッシュバックする。
赤い雫が鮮明に蘇り、まるで自身の腕を今にも滴り濡らす錯覚を覚えた。
無双弥月は「赤」という色が嫌いだった。
特に血を連想させるような真紅は、まるで命そのものの色だ。ぼやけた現実の輪郭を浮き彫りにするようで、恐怖というには静かだが、不安というにはハッキリし過ぎる、そんな感覚に襲われてなんとも居心地が悪い。そう、居心地が悪いのだ。
弥月は、無意識にそれを口元に…。
我に返った、自身の手を見つめる。そこには無論、赤い液体など無い。
その事に安堵する。そして、同時に安堵した自分に疑問を抱く。
俺は今、何にホッとしたのだ?
眼前まで迫っていた手を胸に当て、そこを握り締めた。
自身では辿り着けない。いや、辿り付きたくない答えを否定する様に。
「俺は…?」
呟く様な自分の声が自身の発した足音に溶けた。
誰もいない廊下を歩く、徐々に傾きつつある陽光が眩しく、目を開けてるのが辛かった。
だが、それがとても愛おしいものにも思える。今日もまた日が沈む。
決して光が届かない、深い谷底のような、夜が訪れようとしていた。
それが恐ろしくもあり、又、待ち遠しくも在る。
化け物。自身も化け物になってしまった。そんな自分を肯定するように。
今日も化け物の夜が来て、おかしな月が昇る。
まるで、避けるように、いや、現に避けて。弥月は自身の中の疑問と思考を停止した。
これは、彼の精神が意図的に負担を避けるために行ったものか、それとも優しい夜の肯定を受け入れたものか。弥月自身にも分からない。
やがて、目的の場所、二年C組、弥月のクラスへと戻ってきた。
目的は当然、自身の荷物、といっても鞄と筆記用具程度だが、これを回収するためだ。
三笠晴樹は結論を急がせなかった、どう仕掛けたのかは知らないが学校行事の夏の勉強合宿で弥月を選抜メンバーに加えたのも彼の仕業だった。
おかしい筈だ。自分が勉強で全校選抜になど選ばれる筈が無いのを弥月自身痛いほど理解している。すごく悲しい自己認識ではあるが。
夏季休業中、弥月の姿が見えなくても違和感の無い様にする晴樹の配慮だった。当然、既に家族に連絡が行っている筈だ。
合宿の開始は二日後7月22日。丸一日の猶予を貰った事になる。
事が事だ。これでもかなり寛大な処置だろう。
だが、行くも地獄、引くも地獄、どちらの地獄を選んでもきっと孤独な何かと戦う日々になるのだろう。
また胸をぎゅっと握り締める様に押さえた。
一息つき、握った手を放し、教室の引き戸の取っ手に手をかけ、何の迷いも無く扉を開く。
すると、開いた扉から夕暮れの少し涼しくなり始めた風が、弥月を迎え入れた。
「あ、弥月おかえり!大丈夫だった?」
アレ?と思う間もなく、薄く闇の落ち始めた茜色の教室に在る人影が弥月に話しかけて来た。
聞きなれた声ですぐわかる。新辰裕也だ。
「帰ったんじゃなかったのか?」
少し意外な展開に弥月は思わず思ったままの疑問を口にする。
「いや、それはその、流石の悪のカリスマ、裕也さんも悪に徹し切れなかったというか」
歯切れの悪い台詞を聞いて、弥月もようやく全校集会での顛末を思い出した。
この友人のせいでクラスメイトに袋叩きの刑に処された事実だ。
「いや、その、こんなに酷い事になるなんて思わなくて、その、ごみんなさい」
「…ぷっ」
「あ、あのさ。その後保健室にも行ったんだけど、保険医さんに追い返されちゃうしさ」
「は、あはははははははっ」
なんともバツの悪そうな謝意をしどろもどろに並べ立てる友人にすっかり毒気を抜かれてしまった。
やはりこの男はすごいと弥月は改めて思った。この友人だけ居てくれれば自分の日常は壊れないかもしれない。いや、きっと壊れない。漠然としこりの様に固まっていた不安が解けていくようだった。
「なーに気にするな!別に特に酷い怪我もしてないよ!」
「ちょ…ぐはっ、台詞と行動に一貫性が、ぐえぇ、ギブ、ギブぅぅぅ!」
「これは俺なりの友愛の印だ」
「ちょ、どっかの、政治家、ぐぅらい、げぇ、怖い、よ、その友…あい、ガクッ」
笑顔の弥月のチョークスリーパーホールドが裕也の動脈に鮮やかに極まる。
まぁ罪は罪、罰は罰である。が、まぁ処刑に処すのは少しばかり浅慮といものだ。
弥月はその腕を緩めて裕也を解放した。
「げほぉ!けへっけへっ!じ、じぬがどおぼっだ!」
「貴様には死すら生ぬるい」
「ハイ、すみません」
膝から崩れ落ち、肩で息をする裕也を置いて、自身の机に移動する弥月。
そして、自分の鞄を掴むと、それを裕也に向かって放り投げる。
「んじゃ、帰りますか」
「……イエス、サーヤツキ」
弥月の鞄を抱えるようにキャッチした裕也は、鞄持ちで手打ちの意図を読み取りニコリと笑った。


作品名:TheEndlessNights(1) 作家名:卯木尺三