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うつくしい君の瞳/心臓

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 なるだけ上等のリボンで。なるだけ美しい宝石で。飾り付けて、はめこんで。そうしたら出来上がりあたらしい生命。
リチエルが一番丹精込めて作ったのは、まぶただった。このまぶたがゆっくりと押し上げられ、薄紫の瞳が自分を見るときを想像しながら、慎重に作り上げた。人間の薄い皮膚を模したその部分が、一番根気の要る箇所だった。
ルビーの心臓を。燃え盛る心臓を。かちりと音がして、胸部のふたを閉めると、体内からモーターのような、発条のような音がする。しばらくして音が落ちつくと、ゆっくりとまぶたと唇が開いた。
薄紫の瞳がリチエルをとらえ、そうしてにっこりと微笑んだとき、彼は涙が頬を伝うのを感じた。

ずっと待っていた。
リチエルは、ずっとこのときを待っていた。

「おはようございます」
リチエルはことさらゆっくりと発音してみた。すると、同じように「おはようございます」と繰り返した。滑らかな、上流階級の発音だ。リチエルは満足してつづけた。
「あなたは、アイリスです。あなたの名前は、アイリスです」
「あなた、あなたは、わたしのことですか?」
「そうです。あなたとは、相手のことを指し示す言葉です。あなたは人から、アイリスと呼ばれます」
「・・・わたしは、アイリスです」
「そうです」
「・・・あなたは、どなたですか?」
「わたしは、リチエルです。あなたを作りました」
アイリスは瞬きをした。それから、きゅっと口を結んだ。それだけの行為が、どれほどリチエルを喜ばしたかしれない。リチエルは満足そうに微笑んだ。
「あなたは、今日から、アイリス・エヴァンズです」

リチエルは、途方も無い時間を一人で過ごして、それからずっと待っていたのだ。エヴァが生まれるときを。そうしてこの世に再び人の子が溢れ、醜くも美しい世界が再興されることを。
アイリスはそのための始まりの人であった。リチエルは創世記を知っていたので、アダムのあばらからエヴァを作ることをしなかった。今度は逆に、エヴァを先につくったのである。そうすれば、物語は多少かわるかもしれないと考えたのだ。

「それでは、アイリス。あなたはこの本を読んでいてください。わたしはお仕事をしなくてはなりません」
そう云ってリチエルは一冊の本を彼女に渡し部屋を出た。

さあ、アダムを作ろう。一対なる生き物を作ろう。