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たれが書き換えるこの世界

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 考え無しの周波数が脳波に直接メッセージを送ってくる。耳をふさいでも途切れることの無い、怨嗟とも悔恨ともつかないその言葉はラヴィエンヌをひどく消耗させた。

昔の話である。

彼女のたった一人にして最愛の妹は、他の人間とは違った。声であって声でない。しかしながら声を持っていた。
ピコは唄う。喜びの歌を、悲しみの歌を、子を亡くした母の歌を。
彼女はただマイクだけを持つ。
それで十分だった。それだけでピコは、たくさんの人に希望を与え、絶望を与え、死を恵んだ。

ピコは14で軍属になり、16で佐官となった。名目上のものであっても、こんなことは今までありえなかった。
しかしピコが”発見”されて以降、同じように特殊な力を持つ人間が次々と発見されるようになった。軍はこれらの人間を集め、教育し、兵とした。所詮兵である。しかし彼らは駒ではなかった。基本的に佐官からキャリアが始まる彼らは、一応は大隊長扱いだが、たった一人で戦地に赴く。そうしてたった一人で戦線を駆け抜け、ひっそりと戻ってくる。酷く孤独な戦士達だった。

「テルヴェリチェ・キクス・ラヴィエンヌ中佐」

年若い兵の呼ぶ声に顔を上げる。逆光で顔が見えない。幼さを残す声が震えているのには、気づかない振りをした。
「御車の用意ができました」

ラヴィエンヌもまた、特別任官の中佐である。孤独な兵士だ。普段馴れ合っていない分、”普通”の兵に興味が湧いた。


「ありがとう。ところで、あなたはお幾つ?」

敬礼をとくよう手だけで合図しながら問う。

「はい!今年18であります」

18歳。この少年は、もう人を殺しただろうか。勿論色づいているはずも無い指先を見る。


「そう、私の妹と同じだわ」





ピコ。お前は今日もたれか人の子を殺したのかしら?どこかで唄うように殺したかしら。しかし、どうして私にそれが止められよう。
ラヴィエンヌはひとつ大きく息を吐き、そっと立ち上がった。

砂漠の砂けぶり。そのずっと奥に、彼女のかわいい妹がいる。