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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-2(2)>

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-エリシア海 上空-
(グアマ天文台標準時0900)
<アラフマード東海岸線沖 約250Km地点>

 戦闘も佳境に差し迫ったところ、ノーチラスAA隊の間で混乱が生じていた。
その火の元は、敵の新型二機。
形容がつかめない新手の登場により、戦況は様変わりし、
彼らの焦燥を駆り立てる原因となっていた。

 ぱっと空に閃光が瞬いた。
『セリエ2がやられた』
『セリエ1より各機へ。敵の新手だ。正体不明のARが二機』
あまりにあっけなかった。正体不明機と接触したのもつかの間、
近接戦闘に定評のあるアーヴィン・ストーム軍曹<セリエ2>
が数秒とたたずに撃破された。
正体不明機の出現により、母艦とパイロット、パイロット間での
情報のやり取りがとたんに慌ただしくなった。

 通信回線ごしに錯綜する情報のやりとりを聞いて、
<ブルーム3>ヘクター・ガルガリン軍曹は、通信に気をとられるあまり、
敵にやられるというマヌケなシチュエーションを一瞬連想して
『んなアホな』と自嘲気味に口端を吊り上げた。
 万が一そんなことをやらかすほど自分はマヌケではないし、腑抜けてもいない。
常に想像力を働かせていれば、大抵のケースは無難に対処できる。
精鋭の一人である自分に手抜かりがあるとすれば、事態が
自分の想像の上をいっていたということだ。
このような逆説的思考ができる自分が、不足の事態に陥るなどそうそうない。
慢心せず油断せず傲慢にならず、謙虚であることが身を生かすのだ。

 瞬き一つして、ヘクターがモニター越しに一瞬、
リフレクションスノーの煌きを認めた次の瞬間。
自機の上半身をビームの光が突き穿っていた。
彼の予測する事態の中にはこのような事態は含まれていなかった。
 愛機の身になにが起こったのか認識できたのは、脱出装置が作動し、
コックピットブロックがボーズ粒子と電子の光に包まれた段であった。
『ブルーム3、ダウン』
『ばっかやろう、ヘクター!このマヌケの腑抜けめッ』
 これでは、『謙虚(笑)』である。
ヘクターの耳に、同僚の罵声が響いた。

 瞬く間に、ノーチラス隊のARが二機、喰われた。
突如として現れた、二体の黒い凶獣。
暴力と破壊を体現する、漆黒のAR---K・ジャッカルとK・キマイラ。
二機の”獲物”をその牙にかけた獣は、まだ『喰い足りない』と
自らの力を試行するべく、次の生贄を求めに行った。

                 ******                                 

「こいつはなかなかの曲者だな。アインヘリアルを全身に使っている
だけあって制御に苦労する」
新型であるK・ジャッカルの慣らし運転をしてみて、
ヴァルバス・アルミドルが漏らした感想がそれだった。
 アインヘリアル---成層圏上層部でしか生成されない
高純度のフローティングメタル。
ノーマルなフローティングメタルよりも倍以上の推進力を
生み出す特殊な浮遊鉱石が
K・ジャッカルとK・キマイラには使われている。
それも、内臓されているリフレクションホイールだけにではなく、
フレームやそれを覆う一次装甲にもだ。
 そのおかげで、どのように動いても全身が過敏に素早く反応する。
そのような性質により、この二機は躯体そのものを
リフレクション・ホイールに見立て、ゴムが伸び縮みする反発の要領で
強大な速度を発揮し、既存機の数倍以上の瞬間速度で
戦闘機動を行うことが出来るARだった。
それゆえ、取り回しが非常に難しいとヴァルバスは感じた。
そうは言っても、20m強の躯体を動かす大出力のジェネレーターが
生み出す膂力に加え、既存の機体よりも倍の速度で戦闘機動を行える
K・ジャッカルの特性は、力で敵をねじ伏せる自分の性には合っていた。

『ご加減はいかがでしょうか?少佐殿』
ヴァルバスの世話女房。AA戦術大隊副長、ミュートス・ヘルキィルからの通信。
「取り回しは難しいが、乗りこなす楽しさのある機体だな。
パワーがダイレクトに伝わってくるのが面白い」
『なるほど。でも、良い機体とはいわないのね』
「そうだな、万人向けな機体ではないのは確かだ。
機体の反応が敏感すぎて、加減が難しい。
まるで、しつけのなっていない暴れ馬だなこいつは」
『でも、アナタの性にはあってるのでしょう?』
そう言われて、「そうだな」とヴァルバスはうなずいた。
「さぁ、品評は戻ってからにしようか。機体のテストをしていいと
親父には言われているのだ。
リィオンタイプと手合わせをしたいと思うのだが、やってみるか?
奴の動きを抑え込む意味も兼ねてな」
『それは賛成ね。面白そうじゃない』
「ハリス、貴様はどうだ?」
対して、ガンナーのスバリエ3、K・ウルフに乗るハリス・ラッセン中尉は
遠慮がちな苦笑いで返答した。
『自分は、ひっそりと援護させてもらいますよ』
なにを言うか、隊でも指折りの射撃手の癖に謙虚な奴だ。
「ははは、よろしい。それでは、猛獣狩りとしゃれ込もうか」

                *****           

 場の空気が変わった。
それを直感的に感じることができるというのは、戦いの場に身を
置くことを日常としているからであろうか。
戦いというものを生業とし、傍らに死を寄り添わせている人間には、
そういう感覚が肌で感じ取れるものなのだという。
例に漏れず、ラック・キスキンスにもそういった空気の機微を
感じ取れる感性が備わっていた。
「妙な気を感じる。…不快感?
いや、漠然とした不明瞭さでもある。なんだ?」
なんとも言い知れ得ない感覚。
 その感触は、いまいち言葉では表現しにくく、
腹のそこに据えかねる不愉快さと気味悪さを
ないまぜにしたようなものだった。
 
 そのとき、閃光がひとつ空に瞬いた。
『セリエ3、ロスト』
戦闘管制オペレーターが、口早に告げた。
味方のARが、また一機やられた。
『セリエ隊と、ブルーム隊は一旦後退しろ、編成を組み直す』
 (相手のいいようにやられて…!)
皇国軍でも屈指の実力を誇る練達したノーチラス隊の
パイロット達をこうも容易く下すとは、
どういう手合いなのだろう。
『ダリア隊、そちらへ向かって急速接近してくるARが3機。
例の正体不明機だ、警戒しろ』
戦闘管制オペレーターが、警告を告げた。
(これは、好都合…なのか)
あの相手を抑えなければ作戦全体に支障が出る。
ならば自分が買って出るしかないか。
「おいでなすったか。シュライク、フェディック、盛大に出迎えてやれ。
VIPのご到着だ。パターン、デルタで行く」
ラックの指示を受けて、それぞれダリア2、ダリア3の
コールサインを持つ二機のガル・メイスは、ライオン・ハートに
寄り添い密集隊形を取った。

 センサーはすでに相手を捕捉してはいるが、ミサイルなどの
電磁波誘導方式の兵器ではAAを遠距離から狙い撃つことはできない。
AAは、一定濃度下では電波を散逸・拡散する特性を持つ
リフレクション・スノーを身にまとって飛行しているので、
レーダーにはほぼ映ることがない。
AAを捉えるには、電波レーダーよりも有効探知距離の