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ひとつの恋のカタチ

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おまけ、その後の恋のカタチ




「乾杯!」
 とある居酒屋の個室で大きな声を上げたのは、男女三人ずつ、六人組のグループだ。
 女性三人は中学時代からの同級生で、右から佐々木奈美、二見美沙、小林冴子という、全員二十歳の三人組が並んでいる。中学時代から仲良し三人組として、ずっと一緒にいた三人だ。
 そんな三人は、それぞれの彼氏を従えて、同窓会気取りの飲み会を開くことになった。彼氏の年齢はバラバラだが、全員が大学生である。三人の彼氏も、それぞれ中学時代から関わりがあり、中学を卒業してもなお仲の良い女子三人に、彼氏同士も面識があった。
「じゃあ、それぞれ近況を話そうよ」
 そう切り出したのは、美沙である。昔からしっかりしていて、仕切り役でもあるため、自然の流れだ。
「近況かあ。私は相変わらずだよ。普通の大学生。でも、卒業したら経理の仕事に就こうと思ってるんだ。ただいま資格取得の勉強中」
 奈美が言った。
「すごいじゃん。じゃあ彼氏の三田君、どうぞ」
 勝手に進行役となった美沙が、奈美の前に座る男子に振る。彼は、中学時代は美沙が憧れていた男子の一人だったが、今では遠い思い出に過ぎない。
「俺は……奈美と大学は違うけど、とりあえず大学生。でも中学時代から続けてきたバスケは、まだやってるよ。すでにバスケの強い企業から声かかってて、順調にいけば就職もそこかなって感じ」
 少し照れながら、奈美の恋人・三田貴広が近況を発表する。中学時代から、バスケットボールを続けている。
「すごいね。バスケ人生じゃない。そこまで続けられるとは思わなかった」
 そう言ったのは、冴子だ。そんな冴子の肩を、美沙が叩く。
「じゃあ冴子の近況は?」
「私は三年制の短大だから、今年卒業。保育士になるつもり」
「僕も今年卒業で、すでに内定もらってるよ。春から大手企業の一社員。続けてきた水泳も続けられそう」
 冴子と、その彼氏である小安克人が言った。
 小安は三人組と同じ中学ながらも、一年上の先輩である。中学時代から水泳部に所属し、高校時代にはいくつもの賞を取った、水泳の強い選手である。
「みなさん、すごいですね。中学時代から続けているものを、未だに続けているなんて」
 そう言ったのは、美沙の彼氏であり、この中で最年少である、高島健太郎である。美沙とは中学時代からの付き合いであり、一つ年下の後輩だ。
「すごくないよ。それより、高島もすごいらしいじゃん。この間、何かの賞取ったって聞いたけど?」
 三田が言う。
「賞っていうか、街の小さな文学賞です。佳作で入賞しただけですけど……せっかく文学部に入ったので、そちらの分野に進みたいとは思っています」
 唯一、固い口調で、高島が答える。きちっとしたしゃべり口調は、中学時代から変わっていない。
「十分すごいよ。じゃあ、最後は美沙だね」
 奈美が、美沙を促す。
「私は、学校を休学することになったんだ……」
 美沙の言葉に、一同は固まった。
「え……どうして?」
 奈美と冴子が同時に尋ねる。その言葉に、美沙は高島と目配せをし、静かに微笑んだ。
「実は……結婚することにしちゃいました!」
「ええ!」
 そう言った美沙に、一同はどよめくような声を上げた。
「な、なんで急にそんなことに。しかも、学校休学してまで……って、もしかして?」
 言いかけたところで、冴子は悟って美沙を見つめる。
「うん。赤ちゃんが出来たの。だから休学して、産むつもり。近々籍も入れようと思って」
 恥ずかしそうにそう言う美沙に、一同は驚いたまま笑う。
「そりゃあびっくりだな……ご両親には了承済み?」
 一同が、まだ驚いて声も出せない様子の中で、小安が尋ねる。
「はい。この間、お互いの両親に言って……引っくり返ってたけど、ずいぶん前に紹介は済ませてたから、子供も出来たし仕方がないって感じで……」
「お互い卒業したら結婚式するから、その時は来てね」
 高島と美沙が、続けて言った。
「そっか。なんにしても、おめでとう!」
「急におめでたいムードになっちゃったね。もう一回、乾杯しようよ」
 奈美と冴子が言う。
「そうだね。はい、一杯どうぞ」
「いえ、僕はまだ未成年なんで……」
 小安がビールを勧めるが、高島がそう断った
「そっか、まだ高島君は未成年なんだ」
「隅には置けないなあ。先越された」
「いやあ、でも、おめでたいね。すごい嬉しいんだけど!」
「ああ。もう一回、乾杯しようよ」
「あ、でも、美沙はお酒、控えなよ」
 一同は口々にそう言うと、もう一度乾杯をした。
 それぞれ別の道を進んでいるが、それぞれは幸せなのだと、再確認出来るような気がした。

 しばらくして、奈美はトイレへと立ち上がった。
「ああ、飲みすぎちゃったかな……」
 鏡で自分の赤い顔を見ながら、奈美が手を洗う。
「奈美……?」
 そこに、そんな声が聞こえ、奈美は振り向いた。するとそこには、懐かしい顔がある。
「佳代子!」
 奈美が叫ぶように言う。酒も入っているため、普段よりテンションは高い。
 そこには、奈美の高校時代の同級生、中島佳代子がいた。大学進学と同時に、たまに電話で話す程度だが、お互いの近況だけは少なからず知っている。
「やっぱり奈美だ! どうしたの、こんなところで」
 佳代子が尋ねる。
「飲み会。同窓会っていうのかな。中学時代の友達と、彼氏も一緒にね」
「もしかして、三田君? まだ付き合ってる?」
 佳代子は、奈美と三田の同級生だったので、三田とも当然、面識がある。
「うん。もしかしなくても、あいつよ。佳代子は?」
 今度は奈美が尋ねる。
「私も彼氏と一緒。もしかしなくても、山下亮輔だよ」
「すごい! 佳代子もなんだかんだ言って、長く続いてるね」
 佳代子の恋人という山下亮輔は、佳代子が高校一年生の時に付き合い始めた同級生である。もちろん、奈美とも三田とも面識がある。
 偶然にしても、ここには長い付き合いの彼氏持ちが四人も揃うこととなった。

「ただいま」
 少しして、奈美は居酒屋の一室へと戻っていった。
「奈美、遅いよ」
「ごめん。ゲスト連れて来ちゃった。高校時代の同級生なんだけど……」
「山下に中島!」
 奈美と一緒に入ってきた男女に、三田が叫ぶ。
「三田!」
「わあ、本当に三田君だ!」
 山下と佳代子が叫ぶ。一気に、三田と奈美のテンションも上がった。
「よかったら、一緒に混ぜてもいいかな?」
 奈美の言葉に、一同が拍手する。
「もちろん、どうぞ!」
「偶然会ったの? すごいね」
「いらっしゃい。本当、同窓会っぽくなってきたなあ」
「高校時代から付き合ってるの? 長いね……って、うちらも一緒か」
 一同が、佳代子と山下を気さくに招き入れる。
「じゃあ遠慮なく、お邪魔しまーす」
「よし、もう一回、乾杯しよう!」
 仲間が増えて、一同は更に盛り上がった。

 しばらくして。食べ放題の二時間コースを頼んでいた一同は、二時間を終えて店を出た。
「なんか酒のつまみばっかりで、お腹に溜まらなかったな」
「そう? 私、飲みすぎちゃったかも。どこかで酔い覚まさない? もうフラフラだよ」
 店を出るなり、そんな声が上がる。