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ひとつの恋のカタチ

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1、佳代子の場合




「いつか出会うんだ。運命の人。王子様みたいに何もかも完璧な、私の理想の男性に……」

「バッカじゃないの?」
 高校二年生のとある教室で、そんな声が響き渡った。
「ちょっと、奈美。声大きい!」
 そう言って制止しようとしているのは、中島佳代子。この物語の主人公である。
「バカはバカじゃない。今時そんなこと言ってるなんて、信じらんない」
 そう言ったのは、冷めた目で佳代子を見つめる、同級生の佐々木奈美である。
「なによ。理想は理想じゃない」
 佳代子がムスっとして言う。
「なに? 何の話?」
 そこに割り込んで来たのは、山下亮輔だ。誰にでも人当たりが良く、お調子者で通っている男子生徒。今も至って自然に、二人の会話へと割り込んで来た。
「理想論よ、理想論」
 奈美が言う。
「は? 理想論?」
「そう。この子、なんて言ったと思う? いつか出会うんだ。運命の人。王子様みたいに何もかも完璧な、私の理想の男性に……だって。王子様よ、王子様! 高二にもなって、こんな夢見がちだなんて思わなかった」
 奈美が、軽蔑するように言った。
 言われている佳代子は悲しそうに、また悔しそうに口を尖らす。
「じゃあ、奈美の理想の人って、どんな人よ」
「私は、心が通い合ってれば誰でもいいわよ。たとえブ男でもね。現に、私の彼は容姿端麗とは言わないけど」
「でも、カッコイイよ。バスケうまいし」
 佳代子が言う。
 奈美は隣のクラスに、中学の時から付き合っている、バスケ部部長の彼氏がいる。
「まあね。それより佳代子。あんた、そんなんだから、未だに彼氏の一人も出来ないのよ」
 そんな奈美の言葉に、山下が苦笑した。
「女の会話ってくだらねえのな。じゃあ中島の描く、“理想の王子様”ってのは、どんな王子様なんだよ」
 山下が尋ねたので、佳代子は理想の男性像を、頭に思い描いた。
「ええっとね……頭が良くて、背が高くて、足が速くて、お金持ちで、優しくて、カッコ良くて、私のこと一番に考えてくれて……」
「ああ、もういいわ」
 呆れ顔で山下が言う。
「あとね、眼鏡掛けてる人!」
 構わず、続けて佳代子が言った。
 そんな佳代子に、奈美が笑う。
「はあ? なんで眼鏡……どんな王子よ」
「だって。なんか眼鏡掛けてる人って、知性的だしカッコイイじゃん?」
「わかんない。あんたのそのツボ……」
「眼鏡フェチってやつだな……」
 その時、授業開始の予鈴が鳴った。
「次は英語か。じゃあね。授業なんだから、現実に戻りなさいよ、佳代子」
 奈美は席へと戻っていき、山下も無言で離れていった。
「……そんなにおかしいかな」
 去っていく山下の耳に、力ない佳代子のそんな声が聞こえていた。

 次の日の朝。登校のチャイムが鳴る。
「おわ! ギリギリセーフ!」
 チャイムが鳴り終わる直前に駆け込んで来たのは、山下であった。その目には、普段はない眼鏡が掛けられている。
「あれ? 山下。なんだよ、その眼鏡」
「おえー。似合わねえよ」
「ちょっと、頭良さそうに見える」
 クラスメイトのそんな声が飛び交う。
「あはは。昨日、コンタクト流しちゃってさ……仕方なく」
 少し照れて、山下が言う。
「へえ。おまえ、コンタクトだったんだ? それすら知らなかった」
「え? 俺、結構、目悪いよ」
「頭もだろ?」
「うるせえ」
 そんなやりとりを見つめていた佳代子と一瞬、山下の目が合った。しかし、お互いすぐに逸らす。
 佳代子は、いつもと違う山下に、戸惑いを感じていた。

「はあ……」
 昼休み。食事中の佳代子が、溜息をついた。
「なによ。溜息なんかついちゃって」
 一緒にいた奈美が言う。
「いや。なんか、私って単純だなと思って……」
 佳代子の言葉に、奈美が首を傾げる。
「なにが?」
「……眼鏡」
「眼鏡?」
「眼鏡掛けてるだけで、気になるなんて……」
「……って、それって、山下のこと?」
 奈美が驚いて言った。
 それを聞いて、佳代子は頬を赤く染めている。
「へえ、ありえない。本当に単純だね……なによ。眼鏡掛けて来ただけで、好きになっちゃったの?」
「奈美。声大きいってば! ああ、もうどうしよう……」
「ふうん……まあ、悪いことは言わない。諦めなさい」
 小刻みに頷きながら、奈美が佳代子の肩を叩く。
「え、どうして……」
「あんた、山下のこと知らないわけじゃないでしょ? あんな節操ない男……高校入ってから、何人の女と付き合ってると思ってんの。次から次へ食いまくってるのは有名じゃん」
 奈美が言う通り、山下の女癖が悪いことは、学年中の誰もが知っている話である。
「それに、何かのバツゲームで、好きでもない子に告白したり、やってること小学生以下だよ? あいつ……というか、うちのクラスの男子たちは」
 続けて奈美が言う。
「知ってるけど……あ、今はフリーみたいだよ? この間、三年の先輩と別れたって噂になってたもん」
「じゃあ、あんたの理想はどこ行っちゃったのよ。大して頭も良くないし、背も低い方だし、足も速いかどうか微妙だよ? なにより、あんたのことを一番に考えてくれるような男じゃないって。あんな女ったらし……」
「誰が女ったらしなの?」
 そこに入って来たのは、噂をしていた山下である。
「山下……」
 動じることなく、奈美が冷めた目で山下を見つめる。
「なんだよ、佐々木。その氷のような目は。あれ、もしかして俺の噂してた? いやあ光栄だな。何、二人とも、俺のことが好きになっちゃったとか?」
 そんな山下の言葉に、奈美が溜息をついた。
「違う。あんたが、いかに女ったらしかっていう、ウ・ワ・サ」
「俺が女ったらし? 心外だなあ」
「じゃあ言ってごらん。高校入ってから、何人食ってんのよ」
「ええ? そんなの数えてないよ」
「数えられないくらい、食っちゃってるってことでしょうが!」
「食っちゃってるなんて、言葉が汚いですわよ、佐々木さん」
「山下……てめえ、喧嘩売っとんのか」
 じゃれるように言い合っている奈美と山下を見ながら、佳代子は茫然としていた。
「山下。ちょっと来て」
 そこに、山下が同性の友達から呼ばれた。
「何――?」
 山下はそう言いながら、その場から去っていく。
「はあ……分かったでしょ? あんなタラシ、あんたの理想と正反対じゃない。無茶は言わない。やめときなさい」
 黙り込んだままの佳代子に、奈美がそう言った。
 佳代子は悩んだまま、机に伏せる。
「奈美、仲いいね。山下と……」
「はあ? あんた、どこ見てたのよ」
「ふう……」
 すっかり元気を失くし、佳代子は相変わらず溜息をついている。
 そんな態度の佳代子に、奈美も小さく息を吐いた。
「……本気ならいいよ。でも、佳代子があいつと付き合っても、遊ばれるだけだと思う。幸せなんてなれないよ」
「うん。そうかな……」
 佳代子は、遠くで笑っている山下を見つめた。

 数日後。最後に話したあの日から、佳代子は山下と特に話す機会もなかった。ただ、あの日から佳代子の気持ちは変わらず、目線はいつも、山下の姿を追いかけている。
「……そんなに好きなら、告れば?」
 放課後、立ち寄ったファーストフード店で、奈美が佳代子にそう言った。
「えっ?」