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あの昼下がりまでの萎れた純白

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子鷲という少年がいた。黒髪の、変哲もない少年だった。こういった話の主になる人間の大抵がそうであるように、子鷲は退屈していた。彼の目には何も映らなかった。不可思議なもの、己と違ってひとつ異質なものはどれも、白く大きな紙に吸われたように子鷲の視界にはなかった。ではと目を瞑っても、瞼の裏で見る夢は水の中を揺蕩(たゆた)う雲か霞のようで、肌の上にぬるい感触を残すだけで何にもならなかった。それどころか纏わりついて不快で煩わしい。煩わしいものが彼は嫌いだった。

兎に角、背が伸びた頃の子鷲は既に知っていた、「世界には似たような自分しかいないのだ」と。同時に空想は無限であるからその周りを囲むガラスの壁は殊更に厚いのだということも。それは誰もが至る理解だった。


子鷲は鞄を肩にかけて友人を待った。教室から出て来る見知った人の、その瞳も己と同じように何かに気付いて何かを諦めてここに居るのなら、どうして侮ることが出来るだろう。子鷲は友人の後ろについて校門を出た。真っ青に晴れ上がった空に遠くで雷が鳴っていた。夏らしくて善いじゃないかと、彼は思った。
前を歩いていた鸚哥がまた口を開けて、何か喋っている。子鷲もまたいつもの通り与太話だと思って聞いている。己のものより少し低いところにあるその頭蓋の中にも、幼い時分のそれと似たような空想の欠片が揺らめいていることを子鷲は知っていた。「パンジーは」その前にも何かきっと普通の会話はしていたのだろうけれど、思い出せる限り一番はじめの鸚哥の台詞はこうだ、「パンジーはきっと土には還らないよ」そう控えめに、非難するように言ったのだ。ああ、此奴は、と瞬間に思った事を彼は鸚哥に未だ黙っている。鸚哥は頬を少し赤くして(これは恥らっていたりするのではなく、本人の意思でもない迷惑な生来の癖らしかったが)何事か喋っていた。子鷲の生返事に満足しているらしかった。