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VARIANTAS ACT 15 鉄鋼人

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「本当に殺したいなら、必ず頭を撃て。君の為にも…、相手の為にも」
 私は無言のまま試射場を出た。
 昔もこんな事があった。
 私が軍を…
 教官の部隊を去る時、教官は私の背中を見つめていた。
 その時も、ちょうど今日のように雨が降っていた…。




************


[2330時、高度6000ft、ASAF輸送機・2番機内]
「大丈夫か…?」
 エイトが、無線を通じてジーナへ話しかけてくる。
 ジーナは目の前の席にいるエイトを睨み付けた。
「同じ機内にいるのにわざわざ無線?」
「あんまり凄んだ顔してるもんだからさ…」
「そう…?」
「例の中央軍人の話聞いてから少し様子が変だぞ? 確か、お前が軍隊時代だった時の教官だったっけ?」
「ええ…」
「教官って言えば結構な歳なんじゃないのか?」
「まあ…ね…」
「大丈夫なのかよ? そんなご老体に任せて…」
「老体? 教官は歳なんてとらないわ…教官は人間じゃない…。教官は…」
「到着5分前…! 総員最終チェック」
 言葉を飲み込むジーナ。
 輸送機の搭乗員が、彼女の言葉を遮った。
「暗視・視覚情報、調整よし」
「吸気弁、ガス防御域作動。異常無し」
「駆動制御、異常無し」
「火器、装弾!」
 輸送機の機内でMAPSの最終チェックを済ませる隊員達。
 彼らを包む鋼鉄の鎧は、闘いへの備えを十分に施されている。
 銃弾や爆風に耐える装甲。
 十分な視覚情報。
 身体能力の強化。
 装着している感覚は殆ど無く、寧ろ普段より身体が軽く感じる。
 まさに皮膚の一部のようになる。
 そんな鋼の皮膚に包まれていても、心の中までは、鉄で覆うことは出来ないだろう…。
『私を殺してみせろ』
 あの時なぜ、私は教官の事を撃ったのだろう…
 教官の事を恨んでいないと言えば嘘になる。
 しかし、殺したいほど恨んでいる訳ではない。
 第一、教官を殺す事など、到底不可能だ。
 それなのに、なぜ…?
 教官は何故、私に撃てと言ったのだろう…
 今更罪滅ぼしのつもり?
 違う…。
 教官の生徒だった時、教官は私に言った。
『撃った相手の事は、全て忘れろ』と。
 教官は私に、自分を忘れろと言いたかったのだろうか…?
 私の心から、自分を除き去れと言いたかったのだろうか…?
 何故だろう…
 身体の節々が、ずきずきと痛む。
 まるで、教官に叩きのめされた後のように…
 忘れたくても忘れられない記憶。
 身体に染み付いた、教官の一部…
 身体に残った、彼が付けた傷痕…
 その全てが、私を閉じ込め続ける。
 教官が作り上げた、“鋼鉄の処女”の中に…
 教官…
 それなら何故…
 何故あの時、私の背中を見送ったのですか?
 何故引き止めてくれなかったのですか?
 助けて下さい…、教官…
 ここはとても狭くて…
 とても冷たくて…
 とても…
 痛い…
 私を見て下さい…
 あなたが見放した生徒は、こんなにも醜くなってしまいました。
 教官…
 あなたの目は、どこを見ているのですか?
 教官…
 あなたの心は…
 そこに居ますか…?

 私は今、地獄へ降ります。





**************** 





[同時刻、ASAF輸送機・1番機内]

 彼は、ただ静かに佇んでいた。
 暗い輸送機のカーゴ室。
 その中で、ただじっと、その時を待ちながら。
「ポイント到達10分前…高度6000ft…」
「不気味な奴だ…」
 中年の操縦士が、同じ位の副操縦士に思わずこぼした。
「確かに…。あそこまで極端にサイボーグ化した奴なんて見た事もない」
「これがファントムか…」
 副操縦士が、怪訝な表情で聞き返す。
「ファントム?」
「知らないのか? 対機甲機械化猟兵部隊ファントムを…。大戦の遺産…、死者の亡霊…。大戦中、数々の機甲部隊が次々に姿を消した。そしてついに、いくつもの軍閥が潰された。不思議な事に、どの部隊も敵機と戦った痕跡が見つからず、ボイスレコーダーにはただ“助けてくれ!”とだけ残されていた。当時はシェルショックの集団発症と言われていたが、それは違った…。彼らは狩られていたんだよ…。ファントムに…。彼が、その唯一の生き残りさ…」
「よく知ってるな…」
「俺も、狩られた一人さ…」
「お前が?」
「左半身をごっそりえぐられた。それ以来、怖くてHMAには乗れなくなった。それで、軍を辞めたんだ」
 彼がそう言った瞬間、機体は作戦領域へ到達した。
「ポイントへ到達」
 席から立ち上がるティック。
 彼は、特殊金属繊維で作られたアーマーコートを纏っているだけで、他は何も身につけていない。
 開かれるカーゴの扉。
 彼はそこへ、ゆっくり歩んでいく。
 はためくコート。
 外は夜の闇に包まれ、明かりは何も見えない。
「降下3秒前…2…」
 彼は、扉の淵に立った。
「1…」

















 ただいま…

















 次の瞬間、一歩前へ踏み出した彼の姿が、一瞬にして消えた。
「…なんてこった…」
 操縦士が、奥歯を打ち合わせながら呟いた。
「おい! どうした!?」
 心配そうな副操縦士に、操縦士は答えた。
「あいつ今…、“ただいま”って言いやがった…」





************




 彼のボディーが、闇に包まれた空へ飲み込まれていく。
 明かりは一つも見えず、上も下も解らないような落下の中で、彼のボディーだけが黒に冴え渡っている。
 まるで意思を持つかのようにはためき、波打つ、彼のコート。
 輸送機の姿は既に消え、周囲の全てが黒に包まれるなか突然、彼の視界に、白い取って付けたような塊が現れる。
 暗い平らな地面に、ぽつりと立つ、明らかに人工の建造物。
 彼は減速もしないまま重力に従い、ただその貼り付けたような建物に向かって行き、そして…



[同時刻、“アストレイ”営舎・A棟B棟間連絡通路]

 話をしながら歩く、二人の兵士がいる。
 二人は肩にライフルをぶら下げ、眠たそうな顔をしながら、地下倉庫の有るB棟へ向かっていた。
「まったく、馬鹿な奴だ」
「全くだ」
「まさかあいつがスパイだったとはな」
「俺は最初から怪しいと思ってたんだよ」
「バカ言うなよ。お前が一番、奴とつるんでたじゃねぇか…」
「違い無え…。カラドの旦那はよく気付いたもんだ」
「旦那は絶対、裏切り者は許さない…。奴もそろそればらされるだろうな」
「でもよ…、奴を殺したら、連中が黙っちゃいねぇぞ?」
「ASAF…か?」
「なんでも奴ら、最近また装備を強化したらしいじゃねえか…。どっかの軍と組んでるって噂も聞いた事があるぜ?」
「なんだよお前、ビビってんのかよ?心配すんな、こっちにはHMAが有る。カラドの旦那が乗れば敵無しさ。それに、スポンサーが遣した用心棒の先生様が居るじゃねえか」
「そう…だな」
「それより今度、女買いにいかねえか? あのイカレ野郎をさっさと引き渡したら、悪い事は忘れてパーッと…」
 男の唇が未だ動いている矢先、目の前の天井が突然、轟音を立てて崩れた。
 思わず声を上げて後退りする二人。