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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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くれなずむ (一回目:スメルハザード)

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くれなずむ

スメルハザード

 その日の早朝、冶月家の玄関先には、一つの国際郵便小包が置かれていた。
送り主の名は、冶月椎矢。
その小包は父である椎矢が家族にあてた土産ものだった。
国防陸軍の将校である椎矢は、現在。国外に出向している。
発送元の住所は、その基地のものだった。
 
だが、この小包の中身があんな恐ろしい悪夢のような出来事を
引き起こそうとは誰が予測できただろうか。
--------------------------------------------------------------------
 「おはよう、姉さん。その缶詰なぁに?」
リビングに降りてきた椎駄は、自分よりも一足先に起きていた
義姉に対して挨拶を
交わした。
その義姉---クレナは手のひら二つ分大の缶詰を手に持っていた。
なにやら、仰々しい感じの缶詰だった。
「おー、おはよう。いやね、お父さんが勤め先から送ってきたんだよ」
「へー、なになに。しゅーすとろみんぐ??」
 「シュールストレミング、スウェーデンの缶詰ね。ニシンの身を
塩漬けにして発酵させた食べ物よ」
「へぇー」
 いつの間にかリビングにやってきたフィラが、ぬっと出てきて
椎駄のコメントに注釈を入れてきた。
「肴として、ジャガイモ、ニラ、トマト、ポテトサラダやトマトを付け合せに
したり、スライスしたタマネギと一緒にバターを塗った硬パンにのせて食べるの。
スウェーデン北部では少々なじみのある食べ物ね。
でも、取り扱いには細心の注意を払わなければならないわ」
「へぇ、それはまたなんで?」
 フィラと椎駄の話をよそに、缶詰を持ってとてとてと歩き台所へと
行く、クレナ。
二人のやりとりをよそ目に、クレナは興味津々とばかりに缶切りを手にとり----
 「とんでもなく、クサイの。それはもう、腐った生ごみのような
筆舌しがたい臭いよ。絶対に屋内で開けてはいけないわ」
「うわ、そりゃたまんないね」
---きこきこと、缶詰のフタを缶切りでこじあけていく。
 「開けるときは、屋外でやること。
もちろん、缶詰の中身は二酸化炭素ガスが充満してるから、
開けたとたん、ガスの圧力で缶から勢い良く液体がとびだしてくるわ。
それを防ぐため、水中で開けるのがセオリーとされているの。
もし、これらを守らずにやってしまうと・・・」
 キコキコ・・・、コキュ
「あ、開いた」

ブシュ--------------!

 「もひょーーーーーッ!?」
 開いた缶詰の隙間から発酵ガスと共に勢い良く濁った灰色の汁が飛び出し、
クレナの顔面と服に容赦なく浴びせかけられた。
 顔からぽたりぽたりと滴り落ちる、灰褐色の液体。
クレナは『なにが起こったのか、よくわからない』といった表情で、
その場に呆然と立ち尽くしていた。
その有様は悪戯が過ぎて、ずぶ濡れになった小動物がしょげているような、
もの悲しい哀愁を感じさせた。
 「ああいう風になるわけ」
「うわ・・・悲惨・・・」
『って、臭------ッ!!』
立ち込めてきた、鼻がひん曲がりそうな悪臭に思わず絶叫じみた
悲鳴をあげる椎駄とフィラ。
 『エマージェンシー、エマージェンシー。
この区画から総員、即時退避せよ。5分後にこの区画は閉鎖される。
くりかえす---』
脳内でそのような緊急アナウンスが流れたかどうかはともかく、
二人はこの臭いから一秒でも早く逃れるべく、息もぴったりに
同時に廊下へと駆けていった。

 その臭いは、たとえようもなく臭かった。
生ごみのような、台所の三角コーナーに捨てられた腐った肉や魚のような、
どぶの底のような、あらゆる腐臭にたとえても足りないくらいの
筆舌しがたい悪臭が、リビングはおろか家中に蔓延していた。
もはや、その臭さは異臭騒ぎで済まされない。
なにかの有害ガスかと間違われても無理のない臭いだ。

 「・・・うわっ!くさッ!!ちょっと、これどういうことー!?」
と我に返り、のんきな事をいいつつ、とてとてと缶詰持ちながら
近寄ってくる大戦犯。爆心地(グラウンドゼロ)であるクレナからは、
『ぷ~ん』と、より一層強い悪臭が漂ってくる。
『わーーーっ!寄るな寄るなッ!』
フィラと椎駄は、状況を分かっていないバカモノ約一名を必死で『来るな』と制した。

 「つか、窓と玄関開けて!換気なさいっ!たまんないわ」
「うぇぇー、最悪だぁ・・・」
「にょほ~・・・、まいったね、こりゃどうも」
リビングで、すがすがしく爽やかな朝食を摂るはずだったのに、
そこは醜悪な空気が漂う、ヘドロが立ち昇るドブ沼のような状態と化してしまっていた。
 「まさか、これほどなんて。・・・予想外だ」
たった今、目の前で起こった惨事に、椎駄は戦慄した。
 あんなものがこの世の中にあるだなんて、信じられない、本当にどうかしている。
あれを食べるというスウェーデン北部の人達の気が知れない。
ていうか、本当に食えるのか、あれ。あんな、生ゴミみたいな臭いのするもの。
頭がぐるっているとしかおもえない。
 
 「ほんと臭いね、フィラ姉さん」
「推定では”くさや”の6倍以上の臭さだそうよ」
「マジで!どんだけだよ」
「測ってみましょうか?」
 そういったフィラの手には臭度計が握られていた。
知覚できる臭いを数値化して表す機械だ。
フィラは鼻をつまみながら、臭度計をシュールストレミングの
缶詰の方向に差し向けた。
缶詰の中身は、ニシンがどろどろにとけており、
ヘドロのようにガスが『ボコッボコッ』と噴出している。
まるで、有害物質が溶け出した泥沼のような有様だ。
そんな、おぞましい光景をよそに、臭度計の数値はぐんぐんとはねあがっていく。

 『ごくり』

ピーーッ!

ビシリッ!

ボンッ!!

 臭度計がエラー警告音を出すと同時に、液晶モニター部に亀裂が入りひび割れた。
あまつさえ、基盤がいかれたのか、臭度計からは煙が立ち昇りスパークを起こしていた。
(実際は、そのようなことで物理的に故障することはありません。あしからず)
 うわぁぁぁぁっ!?』
予想だにしなかった出来事にフィラと椎駄は、またも恐怖の雄たけびを
あげてしまった。
なんと、その臭さは、臭度計の計測数値が限界を突破し、エラーを起こすほど。
臭度計でも計測不可能なほどの強烈な臭いだった。
おそるべし、シュールストレミング。名前のとおり、ある意味シュールだ。
(※臭度の酷いものは、本当にエラーが出て測定不能なほどです)
「ス・・・スカウターが故障!?計測できないだとぉぉッ!!」
「椎駄。ふるいわよ、そのネタ」
 

                    *

 「朝からさわがしいこと、あの子達。
・・・うっ、なにこの臭い・・・。あら小包」
子供たちの騒ぎに気づき、少し遅く階下に降りてきたプレアネッサ。
謎の悪臭に咽びつつも、玄関に置いてあった小包のダンボールを
見つけ手に取った。
その中に、一枚のメッセージカードが入っているのを彼女は発見した。
パラリとカードをめくり、中身を改めた。
「えー、なになに」
カードには、夫である椎矢本人の字で、小包の中身についての
説明がつらつらと書かれていた。