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温泉に行こう!

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「ちょっとびっくりすることですか。なんですか、それは」
寺島は首をかしげた。
自分からすると、久坂のまわりではびっくりさせられることが多発している。
久坂は慣れているせいか、いつもそれらのことをほとんど気にしていない様子であり、こんなふうに話すのはめずらしい。
「行った先で、桜が見事に咲いていたんだ。だから、感動のままに詩を吟じていた」
桜と詩をこよなく愛する久坂にはよくあることだ。
「そしたら、いつのまにかまわりに人がたくさん集まっていてね」
これも、よくあることだ。
ただし、そこまでの現象が起きるのを寺島が知ったのはこの町に来てからではあるが。
けれども、久坂は慣れているからそれぐらいでは少しも驚かないだろうし、寺島も今では驚かなくなっている。
「僕は彼らに微笑みかけた。すると、その中からひとり、旅の僧が近づいてきて、話しかけてきたんだ」
寺島の頭に、そのときの光景が想像だが浮かんできた。
咲き誇る桜のそばに、久坂が立って、微笑んでいる。
墨染めの衣を着て笠をかぶった僧侶がすっとまえに進み出て、久坂に近づく。
なかなか幻想的な光景だ。
そして、僧侶は久坂に言う。
「あなたは桜の精ですか、って」
寺島はあぜんとした。
それは、ちょっと、いや、かなりびっくりだ。
「………………それで、久坂さんはどうしたんですか」
少し間を置いてから、寺島は質問した。
すると、久坂はあっさり答える。
「いいえ人です、って返事しておいたよ」
「……それは、そうですよね」
たしかに、それ以外の返事はできないだろう。
寺島はまたそのときのことを想像する。
桜の花が咲く下。
あなたは桜の精ですか、と旅の僧が聞く。
いいえ人です、と久坂が返事する。
すごい光景だよな……。
そう思い、寺島は遠い眼をした。
桜の精霊にまちがわれる、が、クサカ伝説に新たに加わった。
作品名:温泉に行こう! 作家名:hujio