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恋するワルキューレ 第二部

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そうやって、裕美は舞台に上がる前のヒロインよろしく、鏡の前でポーズを変え、見る角度を変え、入念に今日のファッションのチェックを繰り返していた。
「よし! これで良いわ! もう、完璧よ!」
裕美は自分の気持ちを確かめる様に、独り言を囁いた。

* * *

「それじゃあ、ツールド草津での裕美ちゃんとサトシの入賞を祝して乾杯ー!」
「「カンパーイ!」」
カチャン! カチャン!
シャンパンの注がれたグラスが一斉に鳴り響いた。
裕美もアルコールはあまり強い方ではないが、この時ばかりはシャンパンを一気に飲み干した。パーティーの主役として呼ばれた上に、勝利の美酒としてシャンパンを振舞われたのだ。美味しくない訳がない。
チーム『ワルキューレ』の面々も同様で、一気にシャンパンを飲み干し冷えたビールや白ワインをオーダーし始める。相も変わらずお酒のペースが早い。
特に今回のレースで男子クラスで入賞したサトシは“お祝い”ということもあって、チームのみんなから立て続けにビールを注がれていた。
本人も本当に嬉しいのだろう。勘弁してよー、と文句を言いながらも注がれるビールをことごとく飲み干している。実際に見た目にも、お酒に強そうだ。
彼はロードレーサーと言うよりボディ・ビルダーの様な筋肉質の体型で、服の上からでも盛り上がった腕や肩の筋肉が見て取れる。この前の秩父へのツーリングの時は、そのヒップラインと太腿を見せられ思わず赤面してしまったが、チーム『ワルキューレ』の数多の男性の中から唯一の入賞者だと言うし、見た目に違わずかなりの実力者らしい。
そのサトシでさえ、ヒルクライムレースで初の入賞だという。
裕美が参加したクラスは初心者向けのショートコースとは言え、ロードバイクブームと言われる昨今ではなかなか競争が厳しいらしい。
裕美も最初は、女性クラスで比較的参加者が少ないということで、“マグレ”で入賞出来たのだと思っていたが、その様な事情を聞かされると、自分が入賞したことが少しづつ嬉しく思えてくる。私の実力も満更ではないわねと、自分の“走り”に対して自信と自惚れが少しづつ膨らんできた。
その喜びは“走れる”様になったことだけではない。元々ヒルクライムのレースに出たのだって、ロードバイク一筋の彼の気を引くためだ。
私もロードバイクで結構走れるようになったんだし、後一押しよ! 後は店長さんに私の美しさをアピールすれば、もう完璧じゃない!
裕美のそんな妄想もあながち間違いではないと思っている。実際、今回のレースで彼との関係も、ただの“お客様”から卒業できたことは間違いないし、彼がパーティーの後も個人的に誘ってくれたことで一気に距離が縮まってきている。
でも彼が体育会系的な視線でしか女性を見ないのは、ちょっと困ったことだ。この前のモデルのエリカに“彼”を取られそうになったのも、エリカがロードバイクに乗り始めたのがキッカケだ。
彼ってロードバイクとかスポーツが好きな女の子なら誰でも良いのかしら?
そんな不安が裕美の胸をよぎる。しかし自分と同じ趣味を持つ女の子を選ぼうとするのは無理のなからぬこと。恋愛感覚がマッチしないのはちょっと不安だけれども、ここは私が彼に合わせるしかないわよね。
そんな彼との関係をあれこれと妄想していた時に、チーム『ワルキューレ』の男達から裕美に声がかかった。
「裕美ちゃーん! ちょっと良いかなあー!? プレゼントを渡したいんだってばー!」
 あら? 店長さんも言っていたけど、本当に私にプレゼントまで用意してくれたんだ? そうよね。男の人達がお祝いしてくれるのだって、私が満更でもない証拠。“彼”とのことだって、もっと自信を持たなきゃ!
チームの男達がこぞって周りに集まり、裕美を讃えてくれるのだ。裕美も女としての自信を取り戻したことで、ちょっと女王蜂のように振舞ってみた
「あら、タカシさん? プレゼントって何かしら? わざわざ私のために用意してくれたのは嬉しいけど、まさか変なものじゃないわよね? タカシさんて悪戯ばっかりするから、信用できないなー!?」
「裕美ちゃーん、そんなことしないってば。折角のお祝いの席なんだからさあ。ロードバイク用のヘルメットだよ。まあ見てよ!」
「ええ!? 女の子へのプレゼントなのにヘルメット?」
裕美はちょっと口を尖らせてタカシに答えた。
男から女へのプレゼントと言えば、スカーフやイヤリング等のアクセサリーが定番。ロードバイクチームのみんなからのプレゼントなのだから、むしろ彼らの好意の印と言えるのかも知れない。でも女としてアピールするためにこのパーティーに参加したのに、プレゼントさえロードバイクのそれでは、多少なりとも彼らの気持ちに期待していただけに、流石にガッカリしてしまう。
「タカシさんたら、もう……。ちょっとは期待してたのに、女の子にヘルメットはないわよぉ」
「裕美ちゃん、まあモノを見てみてよ。きっと気に入るからさあ」
「ええ、でもヘルメットでしょ……」
裕美はそう言いながら、綺麗にラッピングされた包みを開き、綺麗にデコレーションされたヘルメットを見て驚いた。
「あら!? ちょっと可愛いかも!?」
白地に赤い水玉模様がマーキングされたそのヘルメットは、裕美の好きな山岳賞ジャージをモチーフにしたものだ。そこに薔薇のマークがワンポイントで両サイドにペインティングされている。これなら裕美のヴィーナス・ジャージにもピッタリのデザインだ。
「どうだい、裕美ちゃん、悪くないでしょ!?」
「うん、そうね……。これなら悪くないかもね……」
裕美もさっきまでタカシ達に文句を言った手前、掌を返した様に褒めることは出来なかったが、これはかなり良いと思えた。
裕美がヴィーナス・ジャージをデザインした時もコーディネートに注意を払い、シューズやアイウェア等も赤と白で統一させたのだが、ヘルメットだけは出来合いの赤一色のものしかなくちょっと不満だったからだ。でもこの白と赤の水玉模様なら、ジャージやバイクとのマッチングも完璧だし、ヴィーナス・ジャージのモチーフの一つである薔薇のマークまで入っているのだ。これ以上のものはないし、文句の付けようもない。
「どうだい? この山岳賞のヘルメットは日本じゃ売っていないんだけど、海外通販で見つけてね。薔薇のステッカーは裕美ちゃんのオリジナルだよ。そうゆうのが得意な奴が居たんでちょっと頼んだんだよ」
「タカシさん、みんな、ありがとうね。男の子みたいなプレゼントはアレだけど、みんあセンスが良いのね。見直しちゃたわ」
「まあ、大したことないって。それじゃあ改めて、裕美ちゃん、入賞おめでとう!」
「「おめでとう、裕美ちゃん!」」
「わあ、みんな本当にありがとう!」

* * *

裕美がプレゼントを受け取った後、タカシ、オサム、ユウヤといった男達が裕美の周りを取り囲んでいた。チーム『ワルキューレ』の中でも、フットワークの軽い連中ばかりだ。
裕美は彼らにセクハラめいたイジりを良く受けるので、いつもは近づかない様にしているのだが、その辺は彼らも手慣れたもの。今回プレゼントを渡したことに乗じて早速裕美の懐に入り込んできた。