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ふたりの言葉が届く距離

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 第4章



「東京には一泊してね、今日帰って来たの」

 街灯の青白い光に照らされた彼女の顔は、この前とは少し違って見えた。
 仕事用のメイクのせいだろうか? よく分からない。

「そのまま来たのか?」
「ううん。職場に行って報告とかしてからだよ。本当は一旦家に戻ってから来ようと思ってたんだけど、なかなか上司が帰してくれなくて」
「それなら、こんな所にいないで部屋の中に入っていれば良かったのに」
「あんな非常識なこと何度も出来ないよ。それに今日は夕食も用意していないしね。ここで話しましょう」
「そんなわけにいくか」

 俺は白井のバッグを持ち上げると、そのままアパートの階段を上り始めた。
 後ろからついてくる足音がする。

「こんな夜中に女を家に連れ込んで、なにするつもり?」
 冗談めいた声が背中を叩く。
「なに言ってんだよ」
 俺は後ろを振り返らずに答えた。

 理奈以外の人間をほとんど入れたことがない閉鎖的な部屋の中でも、この前来たばかりの彼女は違和感なく存在している。
「なにか飲む?」
 荷物を狭い居間の隅に置きながら問う。
「いいよ、すぐ帰るから」
 そう言って、白井はあの夜も使っていた座布団の上に座り、ジャケットを脱いだ俺もそれに続く。

「阿部くん、理奈は会いたがってるよ。だから、すぐに電話してあげて」
「やっぱり、白井と一緒にいたことで怒ってたのか?」
「ううん……もう、その話はいいよ。確かなのは、理奈が寂しがってるってこと」
「なんだよ、もっとはっきり言ってくれよ。理奈が怒っていた理由が知りたいんだ」
「……気にはしていたよ。でも、それは当然のことじゃない? 理奈の感情も、君の感情も」