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laughingstock9-2

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9章2 


「ロイ、僕は何処へも行かない。逃げもしない。・・・だけど今は一緒に行けない」

 まだルイスを残したままだった。彼に会わなくては。ウサギとpielloの事を知る前に全てが終わってしまう気がした。

「お前の意思で来てほしかったよ。リーフ」

 ロイが諦めの混じるように呟き、リーフに向かうように力の流れを向かわせていた。

(・・・避けられるかな)

 隠れて逃げる能力の方が優れるリーフに真っ向にぶつかって勝算はない。一か八かに賭けても壊れるのはリーフの体のほうだった。
 厄介な相手が迎えに来たものだと内心毒づきながら感覚でウサギの側に寄ろうとして彼がいないことに気付く。

「え・・・?」

 呆気にとられた声を出し、周囲を見回す。同時にロイが狼狽した声を上げた。

「・・・ウサギ!何故・・・」

 悔しげに空を見つめ、何かの力を干渉させようとしたようだが、それは起きる事なく消えた。
 そして遅れるように存在ごとこの世界か2人とも掻き消えた。
 リーフはじっと自分の手を見つめる。

「僕が掴めなかった・・・?」

 名も無きウサギがロイと共に向こうの世界へ飛んだということは分かる。何もない目の前に意識を向けてもそこは草原が広がり、遠くに村落が見えるだけだった。

(ウサギの気配を読み違えるなんて今までなかった。他人のウサギなら分かる。僕のウサギを・・・?)

 酷い焦燥感に襲われる。早くルイスに会わなければ。今この状況でリーフの敵といえない相手はおそらく彼一人だけだった。


 ルイスはウサギに飛ばされた先で何をすることもなく身を隠していた。
 皮肉にも此処はリーフに見つけやすいようにか彼と初めて出会った場所だった。何もない村落で異端審問が去った今、人々は何事もなかったように暮らしている。聖職者がどうなろうと彼らの明日の生活に関係のない事では確かにある。
 皆、思い出さないようにこうして生きていく。それでも彼らの中に影響を受けた人間として忘れることはないはずだった。
 此処で会った少女の中に視た人はリーフの中にもいた。

(・・・本当に皮肉なものだ)

 焦がれた思いは同じ。しかし彼女は死に、想い人はリーフの中からもいなくなりつつあるようだった。もうそろそろ彼はその相手の想いさえ亡くすだろう。
 しかし彼は今必死で足掻いている。
 動かない身体を意志の力で動かして彼は今本当の意味で『生きて』いる。ルイスはpielloであろうと人であろうとそんな者を美しく思う。同じようにかつて生きることに足掻いた自分を思い出す。決して幸せで美化できるような想い出ではなくとも。
 こちらの世界にいる理由の一つでもあった。pielloよりも人の方が醜くそして美しい。
 誰もいない広場でふと気配を感じて周囲を見回す。
 子供か猫や犬が通ったのだろうか。
 だが、気配だけがはっきりと残っている。
 なんとなく思い浮かぶのは端正な顔立ちの優しそうな男。ルイスを気に入っていた物好きで、彼もまたルイスと同じ見方をする者だった。

「会いにきたというのか?・・・たった一度しか会った事のない我に」
『君は私から逃れた数少ないpielloだからな。私を理解してくれていると思っているよ』
「・・・理解などできるわけがない。お前はあの頃から壊れていた。こうなってようやく均衡を取り戻したのではないのか?
 また、こんな馬鹿な事をするのか」
『私の願いを叶えることが?皆の願いを叶えさせてやった。君を含めpiello達もだ。
 ならば私だけ願いを叶えてもらえないのは不公平ではないのか』
「・・・貴方には同情する。ただ貴方のやり方はこちらの人間達に影響が出てしまう。そして人形達が最も憐れだ」

 彼という犠牲があって成り立つシステムなんて作らなければよかったのだ。彼の願いには遠すぎて不確定なやり方過ぎる。pielloが影で暗躍して均衡を成り立つようになってしまったこの世界は、彼の統合でまた均衡を崩す。
 それは戦争という手っ取り早い方法で調和の道へ行く。かけがえない心を持つ人達が殺しあう姿を見ることにルイスは心を痛める。

『美を願ったpielloよ。そんな話をしに此処に来た訳ではないのだ。今回でもしかしたら私の心は満たされるかもしれない。
 最期に貴方を私の統合に招待する。是非リーフと共に覚悟が決まったら来てほしい。
 ・・・そして世にも不思議な高貴なpielloよ。貴方の物語を私ともう一人に聞かせてくれないか』

 ルイスは仕方ないというように肩を竦め、誰もいない場所で空を仰いだ。
 今日はよく晴れている。思い出は全て美しい白の結晶に包まれたものばかりであるというように此処はどこまでも快晴だ。

「・・・昔話だ。此処よりもっと北の地に生まれた娼婦の子だった。お前が思うほど貴族や位が高かった訳じゃない。両親の顔は知らないが幼い頃から器量はそれほど悪くなかったらしい。ただ食べ物 も少なく、寒さに凍える日々だった。
 生きるためにはどんな方法でも必要だった。最も手っ取り早かったのは身体を売ることだったな。その日の暖が取れて金をもらい食べる物を手に入れることができるから。
 相手を気にすることもなく荒稼ぎをしていたし相手に何でもさせていたから他の客や同業の子に恨まれて刺されることもあったし極寒の川に突き落とされそうになったりもよくあった。いつしか自分に近づく危険というものに身体が敏感になっていった」

 相手を魅了する手さえ身につければこれほど楽な仕事はない。その頃は確かにそう思っていたのだ。

「しかし大人になるにつれ成長する身体、大人めいた容姿に失望した。美しくなければ食べていけない。死に直面することが怖かった。学もなかった安易な考えでpielloに願いをした。どうか美しく変わらない姿でいさせてほしいと」

 本当に愚かだった自分。不老を手に入れ、打ちひしがれ毎晩泣いて過ごした。住む世界も生活も変わったのに美しくなっても意味がない。仕事に打ち込むことで全てを忘れようとしていた。いつのまにか素顔も忘れるほどに化粧をし心赴くまま生きていた。

『貴方は優秀なpielloだったな。どちらにも未練のないpielloは仕事に忠実だった』
「・・・我を想う人さえ信じられなかった。幼い頃から人に頼ることなく生き続けてきた。だから生き延びてこれたのだと思う。
 貴方の一部のウサギにも我に触らせることはなかった。そしてあの日、ウサギに引き摺られる仲間を見捨て、ウサギにも耳を貸さず逃げ出した。
 貴方の言うとおりだ。あの世界にも居場所はなかった。しかし結局こちらの世界で生きている。
 あの寒く苦しい町が我の全てだったのだな」
『やはり貴方はとても美しい。空の瓶のような心には美しいものしか入れないのだな。白の欠片と人間の脆さと強さを愛する心だけしか存在させてはくれないのだな』
「・・・醜いものはもう要らない。不要と思うおこがましい感情も持ちたくはない。だから此処まで孤独でいられた。貴方とは、違う。逃げ出した我に危機を覚えて あんな人形を作り上げた。ウサギに心を寄せるように仕向け絶対に裏切らない人形を。
作品名:laughingstock9-2 作家名:三月いち