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laughingstock9-1

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9章1 

「名も無きウサギ、ルイスが先だ・・・。あのままさっきのうさぎに殺されでもしたら困る。シェロには全て終わらせてから逢いに行く。僕はまだあいつに逢えない」
 
自分の死に場所を決めたシェロとともに行くには、リーフには覚悟が足りなかった。大事な物をこの手から落としたくはないと思う心が邪魔をする。
pielloとして生まれた事は何の言い訳にもならない。今を生きる者として選択を迫られていると思った。

「ウサギとpieloってなんだろうな・・・。ルイスは何を知っているんだろうね。名も無きウサギ、知っているかい?あの人が僕と初めて会った時に僕に言った事がずっと引っ掛かっている。
 そしてさっきのウサギ。ルイスのウサギと感じた。なのにルイスを殺そうとした・・・」

ルイスはリーフとも他のpielloとも違う。世界との繋がりを切ったと彼は言った。

「世界の繋がり・・・。あの世界から逃げたのか?pielloとして使役される事から。
 しかしそんな話は聞いたことがない」

彼のウサギがルイスの追っ手ではないのか。逃げた彼を許さない世界からの。
リーフが同じ事をすることはできない。そうすることは自殺に等しい事だ。けれど、もし逃げたら、名も無きウサギもリーフを手に掛けるようになるのだろうか。
全て変わって、今まで共にいても何の感情を覚えることなく。

(僕が見捨てたときに?)

彼を見捨てるなんて有り得ない。そう思っていたはずがシェロと会い、ルイスと会い、依頼人と巡り合うことで揺れているのは確かだった。リーフはその不可思議な感情に眉を寄せた。
変わろうとしていることは認めなければならない。

「名も無きウサギ、僕が何かを行うことはいけない事かな・・・?螺子のついた僕が初めてお前たちの手を離れて動くことは・・・いけないことか?」

規律違反だ。分かっている。そんなことを聞きたいわけではない。ただ肯定がほしいのだ。
彼からでなくてはならない。一番身近で生きてきた彼に。
ウサギは首を縦に振ることはなかった。しかしどこか誇らしげに愛しむような感情が流れ込んでくる。そのことにひどく安心して表情を和らげた。

「僕はおかしい。壊れてしまったみたいだ。
 でも悪くないよ。今初めて本当に、自分のために動く気がする。
 嬉しいんだな・・・僕は、きっと」

何も掴めないと諦めていたこの両の手はまだ諦めていない。リーフは不敵な笑みを浮かべて、空を仰いだ。

「そういうことだ。隠れてないで出ておいでよ。
 お前の身体から染み付いた薬品の匂いがする。僕らが眠る間に嗅ぐ不快の香りを纏って、かくれんぼかい?」

燻りだすようにウサギが力を使うのがわかる。

「ロイ、いつから操られる側から操る側についたんだい?」
「・・・気づいていたのか」

感情の読めない表情でリーフに視線を合わせたまま立ち上がる。

「僕らは特徴をつけられて生まれた。君が僕より勝る部分があれば、僕は君より勝る能力もある。君が戦闘能力に優れていることはこの何百年で知っている。
 僕は戦闘能力はどちらかというと無い方だ。代わりにあるのは最も便利な力さ。
 ・・・後はお前、ウサギが依頼書を持って帰ってきたときと同じ『感じ』がする」

リーフがウサギがいなくても姿が消したり、気配を読むことができるのは生まれ持ったものだった。空間に微力ながら作用する力は重宝している。その分、リーフには近くの物に当てる事ぐらいしか戦闘能力が無い。風が起こす事にほんの少し早さとコントロールをつけることしかできない。

「・・・『彼』も面倒な人形を創り上げたものだ」
「彼?」
「・・・リーフ、先に伝えることがある。お前とエレナが帰ってこなかった時、異例が収集があってな、piello殺しのウサギが向こうから逃げ出した。
 特徴は両目を包帯で塞がれている。パートナーに選ばれたpielloを殺し、城の地下に監禁されていたらしい」

それは先刻、ルイスの命を狙ったウサギではなかったか。返り血で白い毛が赤く染まった巨躯の薄気味悪さに背筋に冷たいものが走る。

「・・・彼は何かを探していたんじゃないのか」
「会ったのか?そのウサギは最初の主を探し続けている。見つけたpielloは見境なしに殺しているようだが。
 最初の主となったpielloはウサギとあの世界から逃げ出した稀有な存在だ。今は生きているかどうかも分らない。ただ、『彼』が危惧したのだろうな。
 自分の駒がこれからも逃げ出すかもしれない。一人でも欠けると困ると。そうして俺達人形ができたそうだ」

頭の中で断片だった情報が繋がる。

あの人の懺悔はこれだったのかと警鐘が鳴る。ロイがあの世界の上層部についたならば、知っていてもおかしくはない事項であるとは思う。リーフは口を噤んだまま、頭の中でウサギに話しかける。

(ルイスの事は上に報告していないのか‥・?)
肯定の気配。そして不安そうな気配に、恐らく漏れているかもしれないことも告げられた。ロイには気付かれていないか確認を取ることは危ない道だった。彼はきっとルイスを探し出す。

r‥・何故そんな手を僕に教える?」

話を逸らすために違うことを訊く。

「俺とお前はpielloの中でも同類だからだ。同じ同属に生まれ、死さえもあの世界に縛られている。
 お前はpielloとして生きて死ぬ覚悟は残っているか?俺達はそれぞれ生まれてすぐに知熊を瑞え付けられたはずだ。その教えを覚えているかということだ」
「・・・覚えていないよ。僕に付いていた人は変わり者だったから」
 
どんな顔をしていたかそんな特徴すら覚えていない.ぽんやり彼の手を共に過ごした部屋の記憶があるだけだった。
しかしあまり楽しい思い出ではなかったとリーフは思わず顔を顰めた。

「お前はその人に恩を報いたいと思わないのか」
「そんな事考えたことも無い」

どっちかというと鬱陶しかったような過保護だったような印象lが何となく残っている。
彼もまた、リーフに悲しい表情を見せた。

(もううんざりしたんだっけ。あの顔を見るのは)

ロイはそうではないようだった。感情の上らない表情が変わって、遠い懐かしいものを視るように揺らいだ視線とやはり悲しい瞳がロイを形作っていた。

「俺は、覚えている。記憶することができない欠落した俺が唯一覚えている一番古い記憶だ。その人の力になることが俺の利用価値だ」
「…ロイがそう決めたなら、僕は何もいわないよ.…けれど自分をそうやって物扱いするのは、やめた方がいいJ
 
ロイが驚いているのが分かる。リーフは視線を逸らしたまま自分の頬が紅潮するのを感じた。
慣れない事は言うものではない。全てはシェロの所為だと責任転嫁して考えているとロイが笑い声を漏らした。

「リーフ、変わったな。お前が一番お前を物扱いしているように見えていた。良い事なのかもしれないな」
 
ロイは表情を引き締め、リーフをもう一度呼ぶ。

「『彼』は今もずっと苦しんでいる。彼の願いを叶えるためにpielloはいるのだ。長い期間をかけて彼は実験している」
「それをいつ知った?」
作品名:laughingstock9-1 作家名:三月いち