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laughingstock3-2

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3章2 a black bull


 不思議な島国の話です。それは昔から言い伝えられた事を守り続けている島。

 リーフがウサギに掴まって訪れた場所は群島諸島と言える島の一つであるらしい。島の直径が本当に狭いらしく、今まで大陸にいた分新鮮な空気を感じる。昔からの城が一つ見えているが此処の民は皆貧しいのだろう。城も古ぼけていて人が住んでいるか定かではない。
 ウサギの姿を横目に見ながら呆れたように一つ溜息。

「・・・ここで合っているのかい?平和すぎて僕らが浮いてるんだけど」

 ウサギは合っているとばかりに首を縦に振る。そしてリーフの袖を引くと城下町へ向かって一気に飛んだ。

 いきなりの空間転移にリーフは一瞬体勢を崩しそうになってウサギの腕に体重を掛ける。

「~~~!!!どうしたんだ一体・・・乱暴だよ。ん?」
 
周囲を見渡すと小さな掘建て小屋のようだ。まるで占いでもしてくださいと言うように水晶球やら何か分からない砂やら数本の火の点いた蝋燭が立っている。
 ウサギは満足そうに一つ頷くと近くにあった椅子に座る。そして真ん中の占い師の席らしい席を指差す。

「・・・僕は此処ってこと・・・?一体どんな依頼なのさ・・・」
 
訳も分からず首を傾げながら椅子に座ると掘っ立て小屋の入り口が開く。そこから現れたのは町民らしい格好の青年。

「占い師様!是非占ってくださいませ!!!私の婚期をお願いします」
「はぁ・・・」

 とりあえず生返事でどうでもいい気持ちで返事すると青年の目が輝いた。
「ありがとうございます!では裏の戸へ見に行ってもよろしいのですね!?」
「裏の戸?」

 青年は不思議そうな顔を返す。

「え・・・?裏の戸から覗けば未来が見えるのでしょう?占い師様。
 いつもそういっていらっしゃるではないですか。
 私なんていつも通っていますから、やっと見せて頂けるようになって今日まで待ち遠しかったんですよ」

(・・・そういう設定?)

 胡散臭げに自分のウサギを見るとそ知らぬ振りで置物に徹している。
 そっちがそうならばとリーフも青年にいつものように笑みを浮かべて寛容に頷く。

「ああ。そうでした。どうぞ、裏口へ。貴方の未来へ」


「・・・どういうつもり?」

 店を閉め、奥の部屋にあるベッドに転がってウサギに問い掛ける。リーフは眠る事はできるが基本的な体力回復などには繋がらない。自分の寝床に戻らなければ何度眠っても身体の疲れを取る事はできないのだ。座りっぱなしで固まった身体を解すように伸ばす。
 ウサギは部屋の入り口で一枚の依頼書を取り出してくる。それを意志で伝えてきた。

「・・・此処の姫様を見守って正しい道へ導け?・・・なんで僕はその依頼の為に占い師を徹しないといけないのかな?」
 ウサギが伝えてくるのは此処の持ち主が里帰りをしており、帰ってくるのが半年後であるらしく、その城の主の財政は圧迫されており、占い師が帰ってくるまでには多分間に合わないらしい。しかし占い師が懇意にしている姫たちなので此処で未来を見せて必要であれば手助けをしてあげてほしいらしい。

「姫たち?・・・3人もいるんだ・・・」

 面倒くさいという顔を前面に出しながら恨みがましく呟きつつ、いつまでも戸の側で立っているウサギに手招きをする。

「わかったよ。それより入るか出るかどっちかにしなよ。そこに立たれ続けると床が抜けそう」

 ウサギは殊勝にも部屋から出て行く。その様子に苦笑しながら、先日シェロからもらった写本を取りだす。シェロは聞かなかったが、多分この内容で分かった筈だった。

「・・・面倒な奴だな。ただ、ウサギの見た目をしているだけでいいのに。
 まだ自分に何かを求めるなんてさ。しかも僕のためとか・・・冗談にも程があると思わないかい」
 
問い掛ける相手は遠くの空の下だ。ふと自分の纏う物が重く感じた。
 帽子や手袋、靴を脱ぎ、ついでに髪も解いてベッドの上に座り込む。読み尽くした写本、人格のあるウサギ、pielloの存在を握るウサギ。

「・・・可哀想な、ウサギ」
 嗤いながらリーフは写本をたった一つの暖炉に投げ込みに素足でベッドを降りた。床の冷たさを感じながら焼き捨てていく。炎で消えていくのを目で追い、外は吹雪いているのに気付いて窓を開けた。
 美しいを通り越して寒々しい景色に外へ出たいという欲求に駆られて我に返る。そして先程までの支配された思考に嗤いたくなってしまう。

「嗚呼。違う・・・嗤いたいんじゃない。泣きたいのか・・・僕は」

 ウサギ、名も無きウサギ、お前が命を握っているんじゃない。僕が握っている事ぐらい分かっている。しかし思わないか。あまりに馬鹿馬鹿しいと。何もかも壊れて真っ白になってしまえば一番綺麗だと、少しは思わないか。

「・・・お前は、思わないんだろうね。僕といる事だけでそれでいいと言った愚かなお前は。
 だから僕もそんなお前を・・・」
 
そこまで言って言葉を止める。無性に吐き気に襲われてその場に膝をつく。体調の不調に口元から零れる赤に今更気付いたように微笑む。

「・・・時間切れだね」

 身体が動かなくなるのを感じ、抵抗するのをやめてリーフは目を閉じた。

 朝、名も無きウサギが起こしに部屋に入ると人形のように倒れている相棒の姿を見つける。その身体は完全に人形と言って過言ではなくなっている。いつもの事だった。
 不調を訴えればいいのに自分の相棒はぎりぎりまで何も言わない。気付かない。
 名も無きウサギは人形のようにそっと立てかけると脱いでいたものを着させ、髪を編んで片腕で抱え上げた。
 そして空間を飛ぶ。


 辿り着いたのは日の出を見る事のない城。
 沢山の部屋を手に持った鍵で開けていきながら目的の部屋へ歩く。相棒の眠る部屋は相棒と同じタイプしか眠っていない特殊な研究室と監獄が隣り合わせとなった場所だった。
 一体どれほどの人間や彼のようなpielloが犠牲になって、今の相棒やロイが出来上がったかは名も無きウサギは知らない。知る必要はないとそれだけは彼は言えると思っている。
 その犠牲の結果、自分の側にリーフが在る。それだけでいいと思った。
 やがて辿り着いた硝子柩の部屋。その中に草の蔓のモチーフが描かれたものに鍵を入れて蓋を開く。リーフの首に首輪を両手首に手錠を、両足首にも同様の物を嵌め、鍵を掛けていく。そして硝子柩に彼を納めて鍵を掛ける。そうすると水音と共に柩内に水が溜められていく。完全に意識を失ったリーフは此処でようやく安息を得るのだ。羊水へ帰るように。
 柩内を満たしたのを見届けると、踵を返して名も無きウサギは部屋を出て行く。今回の依頼は他の者に渡し、次の依頼―リーフの身体が修復された頃―にまた、螺子を巻いて出かけなければいけない。
 それまでは一時的な離別だった。名も無きウサギはそれでも良いと言い聞かせている。
 彼はまた自分の側へ戻ってくれるのだから。

3章ー完ー
作品名:laughingstock3-2 作家名:三月いち