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ロストブルーフィルム

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ヴァニシング


 嫌いだと思うならそう思わない距離にまで離れてしまえばいい、と笑いながら誰かが云った何気ないその言葉の意味が、帝人にも何となくわかるような気がした。
 そうやって自分の感覚を、上手に騙していくのだと。
 「ねぇ、帝人くん」
 忘れるということは、失うということに限りなく近い。
 ( 帝人、 )
 心のどこかでそうと知りながらも忘れていく果敢なさごと、響かない人に委ねる。
 脳裡で一瞬重なった声と声に、帝人はゆっくりと臨也を見た。似ても似つかない声質。親しんだものとは異なる呼称。視覚的な情報を得れば余計に懸け離れていく印象の差に、データの上書きという言葉が浮かんではすっと消えた。
 「……何ですか」
 躊躇いもない馴れた手つきが帝人のシャツを肩から脱がせてベッドの下に落とす。節のある長い指先は脇腹を擽るように撫で上げて、数時間前の熱を慥かめるように手のひらをひたひたと押し付けながら腰を辿っていった。燻る熱の消えない体は燠(おき)のように感応しやすく、臨也の手の下で帝人は小さく身を捩る。熱く感じる手と冷めようとしていた肌が同じ温度になるのに大した時間は掛からず、帝人は急な耳鳴りに眉を顰めながら彼の返事を待った。
 間の置き方も、声の使い方も、所作のひとつひとつにしても。
 緻密な計算の内だと汲み取らせる姑息さを臨也は隠そうともせず、ある意味それに関してだけは真摯だった。選べない選択肢ではなく、選ぶことのできる選択肢を用意して、尊大に広げて提示してみせる。
 「愚かだと知りながらそれを繰り返すのは愚者の行いではなく、ただの――、」
 帝人は臨也の笑わない目に視線を落とした後、それを小さく笑った。

 怠惰だと、笑われてもいい。
 沈むのが独りならば構わない。

 ブラインドの隙間から差し込む霞んだ光に、埃が小さな反射を繰り返す。
 まだ昨日から一度も離れていないベッドの上は、映写機で映し出されるあれに似て音もない空気が騒がしかった。生理的に浮かぶ涙に囚われた視界に、無声の中、銀幕に映し出されたような風景が揺れる。モノクロで統一された部屋が、色を持たない無機質な雰囲気を際立たせていた。使い込まれたような物が一切ない部屋には、物に宿る人のぬくもりも、積もる歴史もない。寧ろ誰か触ったことがあるのだろうかと疑問に思うほど、臨也の私室は生活感に乏しかった。
 完璧に清潔な、小さな箱の中。










 ※以降少しだけ続き、R-18表現がありますのでOKな方のみ単品をご覧下さい。